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空を飛ぶ  作者: 林来栖
第二章 風に問う
19/113

6

 離れから母屋へ戻ると、晃は浅野の自室へと案内された。

 十二畳ほどもある広い部屋は、入って右側の壁の全面が作り付けの本棚になっている。

左は音響機器とバルバットが六本、置かれていた。

 浅野は扉と同じ壁面に接して置かれた長椅子を、晃に勧める。本棚の一角に設置された

家庭用システム・コンピュータの端末を操作し、浅野は学習型コンピュータに飲み物を出

すよう指示した。

「さっきのコリンの“あれ”なんだけど、実はここへ連れて来てすぐに、同じような質問

をした時、やっぱり、ああいう状態になったんだ」

 浅野は晃の向かい側の丸椅子に腰を下ろした。

「分かってたんなら、言ってくれって」

 晃は口を尖らせる。浅野は「いや、ごめん」と真顔で頭を下げた。

「でもまさか、あのタイミングで日野が質問するとは思わなかったからさ」

「店長に、聞いて来いって言われてたんだよ」

 ブザーが鳴り、コンピュータが飲み物を届けたことを知らせる。部屋の扉を開けると、

自動ワゴンがコーヒーを二つ、載せて来ていた。

 浅野はトレイごとコーヒーカップを持って来る。

 塔経市では、コーヒーは貴重品である。南大陸の、僅かに残った農園で栽培された豆を

挽いて煎れ、フリーズドライ製法でインスタントの粉に加工する。世界でいくらも製造で

きないインスタントコーヒーを、塔経市では市直営の食品管理協会が輸入していた。

「つい昨日、父が買って来たんだ」

 トレイを長椅子の前の木製の卓に載せ、浅野は晃にカップを手渡す。

 嗅ぎ慣れないほろ苦さを含んだ複雑な香気に、晃は眉をひそめた。

「あれ、コーヒー嫌いだった?」

 晃の表情に、浅野が心配そうに聞いた。

「いや。嗅いだことない匂いなんで……」

「日野って、そういう言い方が面白いよな」

 浅野は自分の分のコーヒーを一口ごくんと飲み、くしゃりと顔を笑いに歪めた。   

「在学中もさ、よく匂いがどうのって言ってたよな。高次コンピュータ科の教授はいつも

オイル臭いとか、第二大講堂の二百八番の席に座ると、少し雨漏りの匂いがするとか」

「そんなこと、言ってたっけ」

 実際に臭いで悩まされたことは、晃には多々あった。どうも他人より嗅覚が鋭いようで、

ちょっとした臭気も我慢ならない時がある。

 臭気だけではなく、嗅ぎ慣れない匂いも、どうしても気になって居たたまれない。

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