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空を飛ぶ  作者: 林来栖
第二章 風に問う
16/113

3

 オオトゲアレチウリの浸食が早かった西大陸に比べ、まだ少し遅かった東大陸では、急

ぎ大都市の周囲に蔓植物の嫌う樹木を植えた。

 塔経市でも、市の周囲を取り巻いていた幹線道路を壊し、そこにツルガラシという灌木

を植えた。ツルガラシは、その名の通り蔓植物を枯らしてしまう物質を体内で生成する。

絡み付かれることを回避するための自衛手段なのだろう。

 ツルガラシは、他の植物が近くに生えても、その物質は生成しない。ツルガラシを防波

堤にして、人々はオオトゲアレチウリという大波から、ようよう自分たちの居場所を守っ

ている。

 長いアプローチを経て、晃は玄関扉の前に立つ。『いらっしゃいませ』という機械音が

聞こえ、特殊合金製の扉が、門扉と同じく自動で開いた。

「いらっしゃい」

 開いた扉の向こうで、浅野が待っていた。

「……おじゃまします」

 玄関ホールには、四十号ほどの、塔経市の風景を描いた油彩絵が掛けられていた。名前

は思い出せないが、そうとう高名な画家の絵であることは、晃にも分かった。

 夕焼けに染まる、真樹区のセンタービル。

 周囲の近代建築を凌ぐ高さで聳えるこのビルは、二百年前に放棄されて以来、経済拠点

としての機能は失って久しい。それでも往年の輝かしい瞬間そのままのクリスタルの曲線

を、今も誇っている。

 晃の前の家からも、センタービルが見えた。小学校の下校の時。妹の手を引いて帰り着

いた、我が家のあるアパートメントの階段前で、しばし夕日に輝くセンタービルを眺めた。

 朱色に染まるクリスタルに、美鈴は愛らしい笑みを浮かべて「きれい」と喜んでいた。

晃も微笑んで、小さく柔らかい妹の手を、そっと握り直した。

 在りし日の情景を思いつつ、つかの間絵を眺めていると、浅野が俯いて小さく笑った。

「なんだよ?」

「いや。コリンもね、そこでこの絵を眺めてたんだ」

 例の少女は、回復してからコリンと名乗った。

 コリンは、ホワイト・ウインドに転がり込んでから三日間、店奥の休憩室で昏睡状態に

なっていた。                                  

 熱が高く、目が離せない状況だったため、晃と八木が交代で泊まり込み、看病した。当

初はえらく面倒くさがっていた八木がまめにコリンの看病をする様子を見て、晃は、八木

にも優しいところがあるのだと思った。

 熱が引き、起き上がれるようになったころ、浅野がやって来て、自分の家へ引き取りた

いと申し出た。

 事故なのか、事件なのか。とにかくコリンは大怪我をしながら、恐らくかなりの距離を

歩き、ホワイト・ウインドまで辿り着いた。

 南外縁で、裏社会が絡まない事故や事件はあり得ない。コリンも、そういった犯罪組織

の争いに巻き込まれたのだろう。ならホワイト・ウインドにいつまでも置いておくのは危

険だ。

 晃の意見と八木の考えが同じだったのだろう、八木は浅野の提案を、すんなりと受け入

れた。

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