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空を飛ぶ  作者: 林来栖
第二章 風に問う
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 中奥区逢沙府。ここは中高層の集合住宅が主な塔経市の住宅区には珍しく、一戸建てが

並んでいる。

 一戸の区画は広く、二百坪はある。前庭を広く取り、そこに四季の花々や灌木を植える。

家屋は赤茶色のレンガ風の強化耐熱耐震材をふんだんに使ったネオ・アンティーク。前庭

を望むテラスのあるこの建築は、塔経市民の憧れである。

 ここに住めるのは市のキャリア公務員か、一部の成功者だけである。大半の一般市民は、

よくてもフラットと呼ばれる民間会社運営の高級高層集合住宅住まいだ。       

 さらに所得の低い者たちは、市の供給する賃貸の三LDK中層アパートメントか、三階

建てのメゾンに住んでいる。

 住める土地が限られているこの国では、自治体の権限が恐ろしく強い。土地に限らず、

ライフラインに関しては全て、地方の公務員が握っていると言って過言ではない。

 晃が一年前まで住んでいたのも、三LDK賃貸である。晃の一家は六人家族であったた

め、五人家族以上に適応される、多人数家族特例で二戸を借りていた。晃は兄二人ととも

に、両親と妹のいる部屋の隣に住んでいた。

 三LDKといっても部屋割りはわりと広い。リビングは二十畳あり、各部屋は八畳の広

さがあった。

 だが一年前の美鈴の事故で、倹しくも快適な生活も終わった。現在、晃の一家が暮らし

ているのは、南外縁の古いビルである。

 元は貿易商社が使用していたオフィスを住居用に直した一部屋は、二十坪ほどの広さが

ある。間仕切りがないため、晃たちは中に残っていた棚や拾った家具などで、どうにか幾

つかの部屋に区切った。

 父は、冷暖房の壊れたこの古いビルの新居で、今も寝たきりである。

 このビルの地下にも、二百年前の遺体が横たわっている。扉は固く閉ざされているとは

いえ、死体の中で蠢いているであろう目に見えない悪魔、レリア・ウイルスの存在を考え

ると、落ち着いて眠ることもできない。

 左右に広がる安穏とした高級住宅街の風景にほろ苦さを覚えながら、晃はゆるい起伏の

続く坂道を上った。

 市の上級官吏が多く居住しているこの地区の歩道面には、五十メートルごとに通行人を

識別するためのコンピュータ端末が埋め込まれている。防犯効果があるため、端末がある

箇所には小さなランプが点滅する。

 昼間でもちかちかと目を射る人工の光に、晃は不快感を覚えて顔をしかめながら歩いた。

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