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その時、正面玄関の前庭にエアカーが一台、入ってきた。ヘッドライトの強い光がもろ
に目を射て、晃は慌てて片腕で両目を覆った。
「敵か?」と、緊張した面持ちで呟いて、麻生が玄関口まで飛ぶ。床一面に散らばった、
特殊加工アクリルの破片の上を、一度の跳躍で躍り越えた。
晃の『声』は、麻生たちの体内に共生したレリア・D—iウイルスに、驚異的な変化を
もたらしたらしい。変異で強くなっていた麻生の筋力は、更に信じられない程の強靭さを
手に入れた。
ややあって、麻生が「味方だ!」と隻腕を振り、晃たちを招き寄せた。
麻生に応え、浅野と柳原博士もまた、跳躍する。晃は、浅野に抱えられて、玄関まで移
動した。
跳躍すると同時に、羽根を広げていた浅野は、一度だけ羽搏いた。形状から想像される
通り、ばさっ、という、鳥の羽音に似た風切り音が、晃の耳を打つ。
玄関先に留まったエアカーから降り立ったのは、木村女史だった。灰色の、特殊警邏隊
の防護スーツを纏った木村女史は、最初に玄関を出た麻生に微笑むと、浅野に会釈した。
「遅くなって、申し訳ありません。……特殊警邏隊の者たちは?」
スクリーン・グラスを外した木村女史は、些か焦っている表情で、晃たちを見回し、次
いで、麻生の脇からアトリウム内に視線を走らせた。
「私がこちらに到着する寸前に、八木二課長から、アトリウムへ強行突撃をする、という
内容の連絡が来ました。——まさか、全滅したと?」
ヘッドライトに横顔を照らされた、白く美しい顔を不安に歪める木村女史に、麻生が、
「いや」と、首を振った。
「全滅はしていない。特殊警邏隊員は、晃くんの『声』のせいで、気を失っているだけだ」
「それは、どういう——」木村女史の質疑を、エアカーに同乗してきた特殊警邏隊員の一
人が遮った。
「隊長! 内勤のメンバーから、公安サブ・コンピュータの一部が復旧した、との連絡が
入りました!」
車窓を開けて怒鳴った警邏隊員を振り返り、木村女史は頷く。
「予測より、かなり早かったようですね」
緊張した面持ちの浅野に、木村女史は、「確かに」と、冷静な口調で返した。
「色々と調査したい部分はあるのですが、サブ・コンピュータが一部復旧したのならば、
公安は更に我々の組織の殲滅のため、本格的に保安官を増員してくるでしょう。取り敢え
ず、この場は一旦センタービルを離れるのがいいでしょう」




