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空を飛ぶ  作者: 林来栖
第八章 天に吼える
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 笠井元二等官の指差す先に、非常階段があった。

 階段に取り付けられた防災用扉は、緊急システムによって稼働を始めていた。

 急がなければ、防災用扉が完全に閉まってしまう。足早に扉に向かいながら、柳原博士

が、「階段は、ここだけかい?」と笠井元二等官に尋ねた。

 笠井元二等官は、振り向かずに返答する。

『三か所あります。ですが、他の箇所の扉も、同時に緊急システムによって閉鎖を開始し

ています。閉鎖速度と、先程の戦闘で生き残った、二課の保安官がこちらに向かっている

現状を考慮すれば、この非常口以外の選択肢は存在しません』

 笠井元二等官が説明している間にも、通路をこちらへ向かってくる保安官たちの忙しな

い靴音が聞こえてきた。

 扉は、既に半分以上も閉まっている。笠井元二等官は速足を駆け足に変えた。コリンに

手を引かれた晃も、走り出した。

 反対方向からやってきた二課の、十数名の保安官が、走りながら荷電粒子銃を一斉に発

射する。

 身を低くして、転がるように、先頭の笠井元二等官が防災扉の向こう側へ飛び込む。

 笠井三等官が、足の悪い柳原博士を担ぎ上げ、走り出そうとした時、保安官の一人が撃

った荷電粒子の閃光が、笠井三等官の右大腿部を貫いた。

 衝撃でバランスを崩し、笠井三等官が、背負った柳原博士と共に倒れる。動けない二人

に向かって、保安官たちが容赦なく射撃する。遮蔽物がないため、二人は床に俯せる。咄

嗟に、柳原博士は自分の外套を広げ、笠井三等官の背に掛けた。           

 柳原博士の外套の右袖に『檻』に腕を突っ込んだ際の焦げ痕が見えないことから、どう

やら柳原博士の外套は、耐荷電粒子の処理がされた布を使用しているらしい。

 保安官たちは、遮二無二荷電粒子銃を撃ちまくっている。保安官たちが容易に二人に近

付かない理由は、笠井三等官がサイボーグ化しており、接近戦では断然有利だと理解して

いるためだ。

 どうしたら助けられるかと、はらはらしながら二人を見ていた晃の脇を、猛烈な射撃を

交い潜り、笠井元二等官が笠井三等官のところへ駆け寄った。弟の荷電粒子銃を受け取る

と、迎撃を始める。

 二課の保安官が発射する荷電粒子の閃光を、笠井元二等官は素早く撃ち返し、悉く相殺

した。

 笠井元二等官が奮戦している間に、晃は扉の前から廊下に駆け戻り、柳原博士を助け起

こした。頭半分ほど自分よりも背の高い柳原博士を引き摺り、晃は防災用扉へと向かう。

 晃と共に廊下へ戻ったコリンが、笠井三等官の体を支える。

 防災用扉の隙間は、その間も徐々に閉まっていく。

 正に神業と思える射撃の腕で、保安官の攻撃を遮りながら、笠井元二等官は弟をコリン

に任せ、防災用扉まで下がる。片手で少しでも扉の稼働を阻止しようと押さえた。

『早くっ!』という、切羽詰まった笠井元二等官の声に急かされて、晃は気力を振り絞っ

て、柳原博士と晃自身の体を、どうにか防災扉の向こう側へ押し込んだ。

 床に倒れ込んだ晃の隣に、コリンが、投げ入れられるようにして転がり込んでくる。

 驚いて顔を上げた晃は、もはや人が通れぬ隙間しか開いていない扉の向こうに、ぎこち

ない笑みを浮かべた笠井三等官の顔を見た。

 名を呼ぼうとした時。ごんっ、という、鈍い金属のぶつかる音が響き、防災用扉が完全

に閉まった。

 弟の名を叫ぶ笠井元二等官の声が、扉を必死に叩く音が、非常階段に谺する。

 防災用扉は、火災や爆発による爆風も防ぐと同時に、向こう側の物音も完全に遮断する。

 武器を持たない笠井三等官が、サイボーグ化しているとはいえ、武器を持った十数名の

保安官に、たった一人で立ち向かい、無事でいられる保証は一切なかった。

 それでも笠井三等官は、命尽きるまで、姉である笠井元二等官と晃たちを守ろうと奮戦

するだろう。

 晃は、守ってくれた有り難さと、何も返す術を持たない自分の腑甲斐無さとで、胸が押

し潰されそうになった。

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