馬鹿は何度死んでも治らない 〜お馬鹿な賊の死に戻りループ〜
雨の中、俺は倒れ伏していた。
「げへへっ……面白くねぇが、つまらなくもねぇ人生だったぜぇ……」
街道を一人で不用心に歩く旅人を見つけ、仲間達と襲いかかって返り討ち。へっ……はみ出しもんになった俺達に相応しい最期だぜぇ……
霞む視界では、旅人が俺に向かって剣を振り上げているのが見え……そして、俺の意識は暗闇へと沈んでいった……
はずなんだがなぁ……なんか、目の前は見覚えありまくる光景がひろがっていたぜぇ。
「おい、そこのガキ! とっととブツを運びやがれ!」
「へっ……?」
頬に衝撃が走る。
「おいコラ……ふざけてんじゃねぇぞ! 死にたくなけりゃ、早く運べ! いいな!?」
殴られて地面に倒れた俺に向かって吐き捨てるアニキ……。
へへっ……おかしいぜぇ。俺はさっき死んだはずだし、確かアニキも8年は前に、ひと稼ぎしてくるぜぇ! って出かけていって、そのまま戻って来なかったはずなんだが……
ぐへへっ……まあ、こまけぇことはいいかぁ!
「へい、アニキ! 了解でさぁ!!」
それで木箱を運ぼうとしたら、上手く力が入らねぇ……! なんか、妙に木箱もでけえとも思ったんだけどよぉ、よく見りゃあ俺の手がちいさくなってんじゃねぇか!
確認してみりゃあ、身体全体が小さくなってたみてぇだし……へへ……よくわかんねぇけど、どうやらお頭に拾ってもらったぐれぇの昔に戻ったみたいだぜぇ……
でも、このままならあっさり切られて死んじまうんだよなぁ……よし、決めたぜぇ! 次はあの旅人にやられねぇように、ちょっとばかし訓練に力をいれてみっかねぇ!!
まずは木の棒で素振りだぁ! オラァ!!
……いてぇ! 何してやがるって怒られちまったぜぇ……。おとなしく木箱を運ぶとすっか……。
そして10年後……。
俺は、再びあの旅人に襲いかかった!
ずばっ! ぐえー。
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「おい、そこのガキ! とっととブツを運びやがれ!」
「へ……へい、アニキ! 了解でさぁ!!」
ぐへへ……なんか、再び戻ってこれたみてぇだぜぇ!
へっ……この俺も成長してんだ。つまり、あの旅人に出会わなきゃ死なねぇんだ! ならば……
さっさとこの場から逃げりゃぁ良いんだよおおぉぉぉ!
「あ、逃げやがった! この……クソガキがぁ!!」
ごすっ ぐえーっ……!
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「おい、そこのガキ! とっととブツを運びやがれ!」
「へ……へい!」
げへへっ、即座にアニキに殺されちまった俺様だぜぇ!
やっぱり、ここから逃げるんは無しだ! へへっ……逃げちゃだめだよな! うん。
へっ……なら、あの旅人のやつを奇襲すりゃあいいんだ! それで仕留めりゃあ、ここからも逃げずに済むし、何より荷物も奪えっしな!
ぐへへ……決まりだ! とりあえず、まずはそこら辺の獣相手に、奇襲の練習をしてやるぜぇ! へへっ……この辺りにゃぁ、ウサギやイノシシが居やがるんだ。肉も取れて、アニキやお頭も喜んでくれるはずだぁ!
「ってことで、そこらへんで獣を狩ってきてもいいっすか?」
「バカか、おめぇは。おめぇみてぇなガキが、ウサギはともかくイノシシなんて狩れるわけがねぇだろうが!」
怒られて、頭をぺしりとはたかれちまったぜぇ……仕方ねぇ、今回も木の棒で素振りをして、訓練をしておくかぁ!
そして、またまた10年後。
俺は、あの旅人の正面から武器を片手に襲い掛かりぐえー。
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ぐへへっ……またやられちまったが、なんか今回は周囲の様子が違うぜぇ! なんだぁ? この白い空間は!
『はぁ……聞こえますか? 私はあなたを生き返らせているものです』
声の方向を見ようとすると、なんか頭がいてぇのか、額に手を置いた女がいたぜぇ……誰だ? こいつ。
『ですから、あなたを生き返らせているものです。まあ、それは良いでしょう……ひとこと言わせていただきます。……あなた、馬鹿ですか?』
あん……? なんで、いきなり怒られてんだ、俺。俺の何処が馬鹿だってんだよ!
『では、聞きますが……なぜ、旅人に襲い掛かるのですか?』
高そうなもんを持ってるからだな。
『その高そうなものとは?』
なんか、立派な剣と良さげなマントだな。他にもぜってーにいいものを持ってんだろ、そんなの。そんな奴が1人で歩いているなら、奪うのが賊ってもんだぜぇ。
『では、あなたの武器は?』
こん棒だな。
『はぁ……馬鹿ですよね? あなた。そんな相手にそんな武器で、勝てるわけがないでしょう』
囲んで叩ければ、多分勝てるだろうが!
『囲む前に、あなたのお仲間が切られてやられていますが? 何より、あなたが狙う相手は、マントの下に革鎧を着ているではありませんか。小柄で非力なあなたでは、当てても勝てるとは思いません』
頭にあてれば、いけんじゃね?
『私には当てれるとは思いませんが。その前に切られて終わるだけです』
なんか、ジト目で見られちまった……繰り返し挑戦すれば、いずれは勝てるんじゃねぇの?
『あなたを生き返らせるコストが異常に安いとはいえ、そのままだと私にメリットがなさそうですね。これ以上は無駄だと判断すると、生き返らせるのをやめますよ?』
それは困る……ん? そういえば、あんたの目的って何なの?
『あなたが馬鹿だとはいえ、流石にそこは気になりますか』
それ、俺が馬鹿なのと何か関係があるんかよ?
『とうとう馬鹿と自分で認めましたね。あなたが死んで元の時間に戻る際、その巻き戻った時間の中で成長した分のアニマ……まあ、力の一種と思ってください。それの一部を回収しておりますが』
何っ、俺のもんを勝手に奪ってんのかよ!?
『話は最後まで聞いてください。そのアニマを使用することで、あなたを生き返らせて元の時間に戻しております』
げへへっ……なら、あまり気にすることじゃなさそうかぁ……。で、なんでそんな事をしてんだ?
『蘇生に使って余った分は、全て私が頂いておりますので』
やっぱり俺のものを奪ってんじゃねぇか!
『全部奪わないだけありがたいと思いなさい』
なんかひでぇ……なんで俺様なんだよ……
『あなたを選んだ理由ですか……今なら理由はわかりますが、私と相性がいいものの中で、異常に死に戻りをさせるコストが安かったのです』
ほーん……で、俺様はどんだけ安かったの?
『セミ以上イタチ未満です。野ネズミとはいい勝負となるでしょう』
比較対象が人ですらねぇのかよ……
『人並みを期待するとは、大変おこがましいですよ』
ひでぇ……で、あんたはこの俺に何をさせたいわけ?
『私は失った力を回復したいだけで、あなたそのものには興味がありません。好きに生きるがいいでしょう……ただ、無駄にすぐ死ぬと私が赤字となるので、もう少し頭を使えと言いたいまでです』
はいはい、わかりましたよ……で、それならあの旅人を襲うのに何か手助けをしてくれねぇの?
『そもそも私は、あの旅人を襲うなと言っておりますが? ですが……このままだと何回死ぬかわかりませんので、少しだけアドバイスをしてあげましょう』
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私は雨の降りしきる森の街道を、急いで次の街へと向かっていた。この辺りには大きな賊の集団があったと聞いていたのだが、最近になって騎士によって掃討されたらしい。しかし、まだ生き残りがいるかもしれない。そして、もしも生き残りがいるのなら……
「……これだけ視界が悪いと狙ってくるはず。……やはり来たか!」
「オラァ、荷物よこせ……がふっ!」
賊達が木を削って作っただけのこん棒を振り上げて真正面から襲いかかってくるが、一太刀でそれらを切り捨てる……まだ子供だというのに、嫌な世の中になったものだ。
……子供だけで襲いかかってくるとは、おそらくは大人がいなくなったのだろうな。
隠れている者が居ないか周囲を確認すると、棍棒を捨てて土下座をする子供が一人だけ残っていた。
「どうか……どうか、命ばかりはご勘弁をぉ!!」
顔が泥で汚れるのを厭わず、額を泥につけている。痩せて小柄な身体に、ぼさぼさで汚れた長い髪。
普段、どんな生活をしていたのだろうか……襲いかかってくるならともかく、流石にこれを切り捨てる程、私は鬼ではなかった。
「顔を上げなさい。襲ってこなければ、命までは……女の子?」
顔を上げた姿……顔は泥で汚れてよくわからなかったものの、ぼろきれのような服の胸元は、少し膨らんでいるように見えた。
「ふむ……他の仲間はどこに?」
「俺が最後の一人ですぜぇ、旦那。大人は数日前から帰ってきてねぇし、残されたもんも、俺とここで転がってるやつらだけでさぁ!」
「……そうか。では、君はこれからどうするんだい? ここにいるなら生活はできないだろう」
「……へへっ」
目線を逸らしながら引き攣った笑いを浮かべる少女……。旅についてこさせる訳には行かないが、ここに放置して見捨てるのも寝覚めが悪くなるな……なら、仕方がない……か。
「……もしも真面目に働く気があるのなら、私に付いてきなさい」
「げへへっ、ありがとうございやす! 旦那ぁ! へへっ……」
……移動中に、言葉遣いも教えてやらねばな。
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げへへっ、何とか命拾いした俺様だぜぇ! 今にも飢えて死んじまいそうでやべぇけど、これで何とかなりそうだなぁ!
へっ……あの白い部屋で、『命乞いをしてみればわかります』って言われたからよぉ……やってみたら大正解だったみてぇだぜぇ。
でも、賊兄弟にもやってみるように言ったんだがなぁ……無視して突撃しやがって……へへっ……
まあいいや、死んだらまたアイツラにも会えるだろ。……ま、しばらくは会えねぇがな。今度こそは、頑張って長生きしてやるからなぁ! ぐへへ……
まあ、そんな感じで俺様は、街で旅人に案内された酒場で雇ってもらい、ウエイトレスとしての生活を始めたのだった。
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『ふふっ、これで多少はましになることでしょう。そうすれば、私の力も早く……ふふふふ……』
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