中編
当初は2話構成にするつもりでしたが,3話にしてしまいました。
声のした方向を見ると遊美がいた。運が悪い事に、その隣には見た覚えのある女子がいる。恐らくは友達と遊んでいたところだろう。
「美香さん,走れます?」
「?お友達なんでしょ?」
「お友達だからです!」
おそらくいきなりでは走れそうになかった美香さんをさっ,と持ち上げ(ほとんどお姫様だっこのような,というかそれ),思いっきり遊美の隣を駆け抜けた。遊美の友達をかるく薙いで。
「ふわわゎっ!!」
珍妙な声が聞こえたが気にしない,学校で妙な噂を立てられたらたぶん終わる。ウチのクラスの担任は「年上の女性と?う~わ~,やり手~」とかきっと言うんだろうが,それが不倫だと知ったら話は別だ。だって男に逃げられてフラれたばかりと聞くし。一応美香さん成人女性。同年代に見えなくもない童顔とはいえ、ちょっと無理があるかもしれない。
ん?なんで逃げるのかって?ヤツは今や他校の生徒だろって?おいおい,俺が通っているのは地元の高校だぜ?遊美と知り合いの女友達なんかもうウジャウジャだ。しかもいつ選抜したのか分からないくらいにバカ揃い。奇跡の並び、長眺め。尻軽どころか身軽以上。
とにかく、情報がバレる可能性をできるだけ削ぐためとはいえ、公道を伝説のような年上の究極美女をお姫様抱っこしながら走るのはやりすぎだなと、素直に思った。
でも止まるワケにはいかないんだ、なんというのか、バレるバレない以前に、テンションが上がってしまっているのだ。どうしようもなく止まらない。
「あっ、怖い!!ダメッ!!止まってってば!!」
ギュウ~ッ、あっ、この感覚は・・・・・・天国?
靴がギキィィイン、となぜか金属音を立てる。とにもかくにも、短いながらもハードな逃避行は終わった。
「・・・・・・あ、あ~のぅ・・・・・・」
「うぅ~・・・・・・,怖かった・・・・・・」
まだ美香さんは俺にしがみついている。肩口を掴まれて上半身を押しつけ合う形になっているから,うん,悪い気はしない。
「もう大丈夫ですよ」
そう言って美香さんの頭を撫でる。うわぁ~,すっごくさらさらしてる。できるのなら数年間はさわり続けていたい。
「・・・・・・ほんと?」
「・・・・・・はい」
平静を装ってはいたが,その時の心の中は台風よりもすごいことになっていた。
う,う,う,う,う,・・・・・・上目づかいだと・・・・・・?
この人はひょっとしたら己の魅力のほどを知っていて,それを存分に利用する魔性の女なのではないだろうか,それとも魔法使い?はたまた心理学者?
※とりあえずテンパっているということをご理解ください。
「なんでいきなり走り出したりするのよぅ・・・・・・」
「すみません,学校に僕たちの関係がバレたらたぶん僕は退学です」
「う~ん,大丈夫よ,どうせ先生だってちょっとだけ昌君がおませさんなんだって思うだけよ?」
「・・・・・・」
その先生が一番の問題なんだけどな・・・・・・
「とりあえずデート再開しましょうか?」
「フフフ,そうね」
美香さんはそう笑いながら今度は自ら俺の手をしっかり握った。
「ねぇ、昌君。いきなり抱き抱えられてびっくりしちゃって言えなかったけど、けっこう力持ちなんだね」
「そんな、恥ずかしいですよ・・・・・・」
「ん?照れてるの?」
「照れてなんかいませんよ」
「嘘だよ、照れてるんでしょう?」
「照れてませんって!」
「なにムキになってんの?カワイ~!」
美香さんはそうからかいながら首の辺りに抱きついてきた。
ちょっとだけためらって,言うべき事を言った。
「そりゃあ照れますって」
不意に言われた言葉に少し面食らった美香さんは抱きつく力を少し緩める。その隙に
「・・・・・・!」
「ん・・・・・・,んん・・・・・・」
周りに誰もいないのを計算に入れてのことだった。あとで計画的な男は嫌いとかふくれっ面で言われるだろうが,きっと可愛いはずだから気にしない。
「・・・・・・ぷはぁっ!」
・・・・・・息してなかったらしい
「鼻呼吸できないんですか?」
「うぅ~,私は見合い結婚だから実は今のが・・・・・・」
「・・・・・・初めてなんですか!?」
そういえば,何度か×××とか××××とかしたけど,そういやキスしたことは・・・・・・
「・・・・・・引いちゃうでしょ,三十路近いおばさんがここまで無経験だなんて・・・・・・」
「・・・・・・俺は美香さんそのものが好きですから」
「・・・・・・昌君はことごとく私の予想を覆すよね」
優しすぎるよ,そういうと美香さんは泣き出してしまった。
「美香さん・・・・・・」
「なんで私はあの子達と同じ時期に生まれて来れなかったんだろう・・・・・・」
「・・・・・・」
あの子達というのはおそらく遊美のことだろう。
「昌君と同い年に生まれてたら・・・・・・絶対に昌君と出会ってみせて・・・・・・今よりももっと仲良くなって・・・・・・大好きだって言うのに・・・・・・」
「美香さん・・・・・・それ以上は」
「・・・・・・ごめんね,卑怯だったね」
「・・・・・・?」
「昌君に愚痴を言うためにデートしたわけじゃないのに・・・・・・昌君をはけ口みたいに使っちゃって・・・・・・すごく卑怯だよ」
大人なのに,小さい呟きが耳に入るとどうしようもなくやるせない気分になった。
「・・・・・・別に構いませんよ」
「え・・・・・・どうして昌君?」
「だから,別にいいですよ。家庭や旦那さんの愚痴を俺に言っても。大人ってきっと大変でしょうし」
「昌君・・・・・・」
「すごく疲れてて誰かに甘えたいなー,って思った時に俺に言ってくれればいいですから。その時は愚痴るなり甘えるなり,その時だけ俺は美香さんの味方でもあり奴隷ですから」
「昌君っ!!」
本日二度目の抱きつきはなかなか速度と威力があったが,大見得切った代償とでも考えよう。
思い切った事を言ってしまったが,自信はない。大人の女性を慰めるなんてまだ社会人にすらなりきれていない俺では無理かもしれない。
でも,守ってあげたいっていう今の気持ちだけは,旦那にも負けねぇ。
次で何とか最終回です。




