表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
完全「有」欠  作者: 双鶴


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/11

第10話 最後の穴

控訴審の法廷。

佐伯慎一は、弁護士の隣で深呼吸をした。


弁護士は静かに言った。


「佐伯さん。

 “心拍数の上昇”は犯行の証明になりません。

 これは絶対に崩せます。」


佐伯は、

その言葉にわずかな希望を感じた。


——まだ……終わってない。


***


検察官が主張する。


「被告人は犯行時刻に“激しい運動”をしていた。

 これは犯行の裏付けである。」


弁護士は即座に反論した。


「心拍数の上昇は、

 運動、ストレス、恐怖、パニック、

 あるいは単なる体調不良でも起こります。

 犯行の物理的証明にはなりません。」


裁判官たちが頷く。


傍聴席がざわつく。


佐伯は胸の奥で祈った。


——頼む……

——これで……逆転してくれ……。


弁護士はさらに畳みかけた。


「被告人は“睡眠中のふり”をするために

 SNS予約投稿をしていましたが、

 それが偽装であることと、

 “殺人を行った”ことは別問題です。」


裁判官の表情が変わる。


検察官は、

少し焦ったように資料をめくった。


佐伯は、

胸の奥に光が差すのを感じた。


——いける……

——これは……いける……!


***


だが——

その瞬間、検察官が静かに言った。


「では……

 “物理的証拠”を提示します。」


佐伯の心臓が跳ねた。


弁護士が眉をひそめる。


「……物理的……?」


検察官は、

机の上に透明な袋を置いた。


中には——


佐伯の“手袋”が入っていた。


佐伯は、

その瞬間、呼吸が止まった。


「……え……?」


検察官は淡々と説明した。


「犯行現場近くのゴミ箱から、

 この手袋が発見されました。」


弁護士が反論する。


「手袋など、誰のものか——」


検察官は遮った。


「被告人の汗と皮脂が、

 内側から検出されました。」


佐伯の視界が揺れた。


——そんな……

——そんなはずは……

——俺……

——手袋……捨てた……?


検察官は続けた。


「さらに——

 手袋の外側から、

 被害者の血液が検出されています。」


傍聴席がざわつく。


弁護士は青ざめた。


「……ま、待ってください……

 手袋は……

 現場に残っていた……?」


検察官は頷いた。


「ええ。

 被告人は“完璧に処分したつもり”だったのでしょうが……」


資料をめくる。


「犯行後、パニック状態で

 “ゴミ箱のフタの上”に置いたまま忘れていたようです。」


佐伯は、

椅子の上で崩れ落ちた。


——そんな……

——そんな馬鹿な……

——俺……

——そんな……

——そんな凡ミスで……?


検察官は淡々と告げた。


「位置情報でも、心拍数でもない。

 あなた自身の汗と皮脂と、

 被害者の血液が付着した手袋。

 これが“物理的証拠”です。」


佐伯は、

震える声で呟いた。


「……俺……

 そんな……

 そんなことで……?」


裁判官は静かに言った。


「控訴を棄却します。」


佐伯の世界が、

音もなく崩れ落ちた。


——俺は……

——俺は……

——手袋を……

——ただのゴミ箱の上に……

——置き忘れただけで……。


***



だが、

それこそが——


凡人の完全犯罪の“最後の穴”だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ