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けもの
懐かしい獣に再会した。
大きな体で、その全体が、長いやわらかな毛に覆われている。顔も毛に隠れて見えない。おだやかな様子だけれど、頭の上には炎をかたどったような、いかつい角がある。
この獣がぼくのところに来たのは偶然ではなく、忘れ物を届けるために、ぼくを探し、長い時間を経てようやくぼくを見つけてくれたらしい。
忘れ物って、なんだろう。なにをどこに置いたままにしてしまったのかな。かすかに思い当たることがあるような、ないような。
とにかく受けとらなくては、とぼくが獣に近づいたとき、「ハクション!」不意に、ぼくの声ではない大きなくしゃみがとどろいた。
おどろいて、獣はうなり、ぼくも夢から目覚めてしまった――
朝、会社へ行く仕度をしていると、スマートフォンに彼女からメッセージが届く。
『かぜをひいちゃった。わたしたちの結婚式まであと一週間なのに。』
甘えるような言葉が次々届く。すぐ返事を送らないと、機嫌が悪くなるんだよな。
ぼくは、あの獣に二度と会えないし、忘れ物も戻ってこないな、と感じた。
ノベルアッププラスからの転載。




