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モモ
Persiko
川沿いの土手で見あげた紺色の夜空を、やわらかい白さの雲が流れていく。
まだ元気だったころのおばあちゃんがわたしのためにていねいに皮をむいてくれた、桃の実を思いだした。
あの雲に乗ってどこかに行けたら――なんて空想を楽しむほど、わたしは幼稚じゃないつもり。
でも、あの家に帰りたくないのに帰らなければいけない、自分の幼さが情けない。
おばあちゃんのいのちが急に濁って重くなり、ひどい終わりかたをした。そのとき以来、お母さんは笑ったり泣いたり、少し気味が悪い。親戚の人たちと怒鳴りあったり、知らない男の人を泊めたり、いつもお酒、お酒、お酒……。
夜に溶けていくようにひろがる雲。
両手でささえてあげられず、地面に落ちてつぶれてしまった桃。
もう元どおりにはならないけれど、残り香だけが、なにかを語りかけてくる。
お母さんは、両手を出すことをためらって、それを後悔しているのかな。
おばあちゃんとお母さんは、血がつながっていない。お母さんとわたしは、血がつながっていない。
でもおばあちゃんは、両手を濡らして、桃の皮をむいてくれた。
わたしはお母さんと、両手でかかわっていけるだろうか。




