第三話 塩の勇者、料理大会に出る
「塩の勇者様!」
「やめろ、その呼び方!!」
スライム退治以来、悠真は村人たちにそう呼ばれていた。
どこへ行っても子どもが「塩勇者だー!」と駆け寄ってくる。
そんなある日、ギルド受付嬢が言った。
「ちょうど村祭りがありまして……料理大会が開催されるのです」
「いや、俺料理できないんで」
「優勝賞品は……金貨百枚」
「出ます」
料理大会会場
審査員席には村長、神官、そして王都から来た料理人。
参加者は腕に自信のある農家のおばちゃんや料理人志望の若者ばかり。
悠真は緊張しつつ、スマホをポチポチ。
「ChatGPT、異世界の食材で一番ウケる料理を教えて」
【審査員の嗜好を考慮すると、“香草焼きチキンの特製ソースがけ”が最適です。ソースには蜂蜜と醤油に似た調味料を使用してください】
「蜂蜜と……醤油みたいなの?」
【はい。この村の市場で“黒豆発酵液”という調味料があります。それが代用できます】
「未来予知レベルすぎるだろ……」
調理タイム
他の参加者たちは野菜スープやシチューを作っている。
悠真はChatGPTの指示通りに下ごしらえをしていく。
「鶏肉は下味に塩と酒……あ、酒はあるか?」
【あります。地元の安酒“ゴブリン涙”を使用してください】
「名前やばっ」
不安になりながらも漬け込み、蜂蜜と黒豆発酵液を合わせたソースを作る。
焼き上がる香りは――会場中を支配した。
「な、なんだこの香ばしい匂いは!?」
「嗅いだことないけど……めっちゃ食欲をそそる!」
審査
村長が一口食べて震えた。
「……う、美味い! 歯が無くても柔らかい!」
神官は涙目になった。
「これは……神の恵み……!」
料理人は青ざめながら叫ぶ。
「こんな調理法、王都でも聞いたことがない!」
会場は騒然。
優勝はもちろん悠真。
「優勝者、塩の勇者! 新たに“料理の覇王”の称号を授ける!!」
「いらねぇぇぇ!!」
こうして悠真は、またしても望まぬ称号を手に入れてしまったのだった。