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VENJI: The Throne of Scars  作者: ヴェンスカ
3/16

第二話『蜘蛛の巣にかかった神父』

あれから五年。

俺はもう「グレイ=ドレッグ」なんて名乗ってねぇ。


街では、仮面の復讐者をこう呼ぶ。


――“黒鎖のヴェンジ”。

声も顔も正体も不明。

だが、恨みを託せば、どんな聖者だろうと地獄に落とす。


誰がそう名付けたのか知らねぇ。

だがその呼び名が、俺の刃の届く範囲を、自然と広げてくれた。


「ほぉん。こいつが今回のターゲットか?……あー、顔がもうクソだわ」


しゃべる魔剣アーガスが、依頼書に描かれた似顔絵を見て言う。


「神父って書いてるけど、目が笑ってねぇし。これはアレだな、“信仰を盾にやりたい放題系”」


「黙れ。切る前にムカつかせるな」


「いやいやいや! これ“事前ブースト”だから! お前の怒りゲージ、早く貯めろって!」


……コイツと付き合うのも五年目だ。

うるさいが、切れ味は最高。

復讐を語るなら、こいつ以上の相棒はいねぇ。


今回の舞台は、ベルナック郊外の貧民教会。

依頼主は、かつて“娘を神に捧げた”とされる男だった。

その後、その神父にすべてを奪われ、今日まで生きていた。


投函された依頼書の文面は、簡潔だった。


『あの神父を殺してくれ。罰じゃなく、同じ苦しみで』

『できれば、俺の前で』


依頼は受けた。

報酬? 知るか。この手のクズを殺せるなら、むしろ俺が金払いたい。


その夜、教会の鐘が一度鳴った。

その音を合図に、俺は鐘楼の上に降り立った。


下では、例の神父が金で買った信徒の少女たちに偉そうに説教していた。


「この世界には“身を捧げる価値のある神”がいるのです。ほら、皆で祈りましょう……」


俺は笑ってしまった。


こんな腐った世界で、何を信じればそんなセリフが言えるんだ?


「おい、“神父”さんよ」

「祈る時間は終わりだ。今から、地獄に付き合ってもらう」


鐘の音と共に、黒い外套の男が天井から降ってくる。

右手には、“無数の目を持つ黒鉄の大剣”。


「……な、な、なんだ……貴様、誰だ!」


「――ヴェンジ。復讐を請け負う者だ」


神父はすぐに逃げようとしたが、アーガスの刃が床を砕いて封じた。

剣がうるさく叫ぶ。


「ほらほらほら! 謝るなら今のうちだぜクソ坊主!! でもお前、謝る気ねーだろ!?」


「うるせぇ。切るぞ」


「はーーーい!!」


最期、神父は泣き叫びながら言った。


「わ、私は神の代行者だ! 私を殺せば、貴様も地獄に――」


「知ってるよ。だから地獄に落としてやる。俺がその案内人ってわけだ。」


ザシュ。

血が飛び散り、鐘楼の中に静寂が落ちた。


依頼主の男は、ただ黙ってそれを見ていた。

やがて、跪きながらこう呟いた。


「……ありがとう。もう死んでもいい」


俺は肩をすくめた。


「それは勝手にしろ。ただ、もう“奪われるだけの人生”はやめとけ。

誰かに奪われたら、奪い返せ。痛みは、そのためにある」


こうして、“復讐屋”の一件がまたひとつ片付いた。


「さーて、次の依頼はどこから来るかな~!? あー! 血の匂いが気持ちいいぜ!」

「……黙れアーガス。帰るぞ」


この腐った大陸には、まだまだ腐った奴らがいる。

だから俺は今日も“蜘蛛の巣”を張る。

次の“依頼”のために。

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