第90話「美陽と幸大、交わる言葉」
1. 偶然の2人きり
遊園地の中を歩いていると、
自然と4人の距離が少しずつ離れていった。
「俺、ちょっと飲み物買ってくる!」
潤がそう言い、
聖羅も「私もトイレ行ってくるね」と離れていく。
気づけば、
美陽と幸大が2人きりになっていた。
(……気まずい)
美陽は、ぎゅっと手を握る。
ずっと話すことすらなかったのに、
こうして並んで歩いているのが不思議な感覚だった。
2. ぎこちない会話
沈黙が続く中、
幸大がぽつりと口を開いた。
「……久しぶりだな」
美陽は、一瞬だけ驚いた。
(幸大から、話しかけてくれるなんて)
「うん、そうだね」
一度目が合う。
でも、幸大はすぐに視線を逸らした。
3. 美陽の笑顔
美陽は、
なんとか普通に話そうとして、
明るく微笑んだ。
「幸大、元気にしてた?」
幸大は、少しだけ目を見開いた。
「……まあな」
「そっか」
「お前は?」
「うん、潤といると楽しいよ」
そう言うと、
幸大はほんの少しだけ、表情を曇らせた気がした。
4. 交差する視線
美陽は、
幸大のそんな表情を見て、
思わず言葉を詰まらせた。
(私、何が聞きたいんだろう)
(何を話せばいいんだろう)
それでも、
ずっと言えなかった言葉を、
ようやく口にした。
「幸大、今……幸せ?」
5. 幸大の答え
幸大は、
ほんの一瞬だけ、微かに目を伏せた。
「……ああ」
短く、淡々とした言葉。
それ以上、何も言わなかった。
「そっか……」
美陽は、少し寂しそうに笑った。
幸大の横顔を見ながら、
“もう彼は、私の知らない時間を生きてるんだ”と、改めて実感する。
6. 戻れない時間
「お待たせ!」
潤と聖羅が戻ってきた。
潤は、美陽にドリンクを渡す。
「ありがとう!」
聖羅は、幸大の腕にそっと触れる。
「幸大くん、待たせちゃったね」
「……いや」
美陽と幸大の短い会話は、
それで終わった。
まるで何もなかったかのように、
それぞれの”今の恋人”のもとへ戻る。
(これでいいんだ)
(これが、私たちの”正しい今”なんだ)
美陽は、潤の隣で微笑んだ。
でも、
心の奥には、言葉にできない感情が渦巻いていた――。




