第9話 夏祭りとすれ違いの夜④
5. 潤、美陽を見つける
「……あそこか」
長瀬潤は、人混みを抜けた先の小さな広場で、ぽつんと座る美陽を見つけた。
祭りの賑やかさから少し外れた場所。
ここなら、周りの喧騒も少し和らいで、空気が澄んでいる。
美陽は、膝を抱えてうつむいていた。
「美陽」
声をかけると、美陽は驚いた顔で顔を上げた。
「……潤くん?」
「やっぱり、ここにいたか」
潤はポケットに手を入れたまま、ゆっくりと彼女に近づいた。
「みんな、お前のこと探してるぞ」
「ごめん……スマホの充電が切れて、どうしたらいいか分からなくなっちゃって……」
美陽はしょんぼりとしながら、申し訳なさそうに目を伏せる。
「まぁ、あの人混みの中じゃ迷うのも仕方ないな」
潤は美陽の横に腰を下ろし、夜空を見上げた。
「……」
美陽は不安げに潤を見つめる。
「ねえ、みんなに連絡しなきゃ……」
そう言いかけた瞬間、ドンッ――と空に大きな花火が咲いた。
「……おお」
潤は少し目を細めながら、花火を見つめた。
美陽も、ハッとして夜空を仰ぐ。
一瞬で世界が静かになったような感覚。
赤、青、黄色……色とりどりの花火が、ゆっくりと夜空に溶けていく。
「……綺麗」
美陽が呟くと、潤は少し笑った。
「なあ、美陽」
「え?」
「もうちょい、ここで見ていかね?」
「えっ、でも……みんなが探して――」
「すぐに戻るって言えばいい。でも、せっかくいい場所見つけたんだし、今くらいは二人で見てもいいだろ?」
潤はスマホを取り出したが、電源ボタンを押さなかった。
(連絡する気なんて、最初からなかった)
「……」
美陽は少し戸惑った。
だけど、潤の穏やかな横顔を見ていると、焦る気持ちがふっと落ち着いていく。
「……うん」
小さく頷くと、潤は満足そうに微笑んだ。
そして、二人はしばらく無言のまま、花火を眺めた。
(幸大、今頃どこにいるんだろう)
ふと頭をよぎる幼馴染の姿。
でも、その考えをすぐに打ち消し、また花火を見上げる。
隣には、潤がいた。