第86話「恋人としての関係」
1. “恋人”になったはずなのに
朝が来ても、
幸大の心はどこか曖昧なままだった。
隣で目を覚ました聖羅は、
幸せそうに微笑んでいた。
「おはよう、幸大くん」
「……おう」
“もう戻れない”ということは分かっていた。
聖羅を抱いたことで、
2人の関係は”恋人”と呼べるものになった。
でも、それは”愛”とは違うものだった。
2. 形だけの関係
「幸大くん、今日の授業、一緒に行く?」
「……ああ」
「お昼、何食べる?」
「適当に」
「じゃあ、私が作ってあげる」
「……別に、いいけど」
そういうやりとりが、
当たり前のように続く。
でも、そこには”ときめき”も”喜び”もなかった。
ただ、2人が一緒にいるという事実だけが残っていた。
3. 幸大の中の違和感
キャンパスのベンチで、
聖羅が隣に座る。
彼女は嬉しそうに話しているのに、
幸大はどこか上の空だった。
(本当に、これでいいのか?)
“恋人”として過ごしているはずなのに、
心の奥に何かが引っかかる。
“美陽の存在”が、消えていないことに――。
4. 交わらない気持ち
聖羅は、幸大の小さな変化に気づいていた。
幸大は、私を見ていない。
それでも、
彼女は気づかないふりをした。
「好きだよ、幸大くん」
そう言えば、
彼は微かに頷いてくれる。
そうすれば、
まだこの関係は壊れない。
5. 聖羅の恐れ
夜、聖羅は幸大の背中を見つめていた。
彼は、何も言わずに絵を描いている。
その絵の女性は、聖羅ではなかった。
(……誰を想って描いているの?)
心の中で問いかけても、
答えが返ってくることはない。
それでも、彼のそばにいたかった。
(私が、幸大くんを”幸せにする”)
(美陽じゃなくて、私が……)
6. 2人の関係は続いていく
“幸大の心が満たされないこと”に、
聖羅は気づいていた。
でも、
幸大が何も言わないなら、
それでいい。
彼が私のことを”受け入れている”なら、
それだけでいい。
恋人としての関係は、続いていく。
たとえ、そこに”愛”がなかったとしても――。




