第84話「幸大の家へ、求めた安息」
1. 迎え入れられた夜
幸大の部屋に入ると、
聖羅は静かにソファに座った。
手を膝の上に置き、
ぎゅっと握りしめる。
(……ここなら、大丈夫)
父親の怒鳴り声も、
暴力も、ここにはない。
ただ、
安心できる空間がある。
「……風呂、入るか?」
幸大が、ぽつりと声をかけた。
聖羅は、ゆっくりと顔を上げる。
「うん……」
「……先に入れよ。タオルあるから」
幸大は、それ以上何も言わず、
タオルを差し出した。
2. 安心する場所
シャワーを浴びると、
頬に当たるお湯がじんわりと沁みた。
(……痛いな)
鏡を見ると、
青あざがくっきりと残っていた。
(……きっと、もう消えない)
でも、
幸大の家にいる間だけは、
父親のことを忘れられる気がした。
3. 2人きりの空間
風呂から出ると、
幸大はキッチンでコーヒーを淹れていた。
「コーヒーでいいか?」
「……うん」
幸大は、黙ったままマグカップを差し出す。
聖羅は、両手でそれを受け取った。
温かい。
その温もりが、
心の奥までじんわりと沁み込んでいく。
4. 何も聞かない優しさ
「……幸大くんは、何も聞かないんだね」
「……聞いてほしいのか?」
「……ううん」
幸大は、
ただ静かにマグカップを口に運ぶ。
彼のそういうところが、好きだった。
“無理に踏み込まない優しさ”。
5. もう、帰りたくない
「……帰りたくないな」
聖羅が、ぽつりと呟いた。
「……」
「ここにいたら、もう何も怖くないの」
「……」
「幸大くんのそばにいたら、安心できるの」
幸大は、
しばらく何も言わなかった。
でも、
彼女の目が”本気”だと分かると、
小さく息をついた。
「……好きにすればいい」
その言葉に、
聖羅の目が、少し潤んだ。
6. 2人の時間が始まる
その日から、
聖羅は幸大の部屋で暮らすようになった。
最初は一時的なつもりだった。
でも、
“安心できる場所”を手放すことなんて、
もうできなかった。
幸大も、
特に拒むことはなかった。
2人の関係は、静かに、けれど確実に変わり始めていた。




