第80話「揺れる気持ち、交わらない思い」
1. 車内に流れる静寂
エンジンがかかり、
車はゆっくりと動き出した。
しかし――
車内には、重い沈黙が流れていた。
「……潤?」
「ん?」
「さっき、幸大と何を話してたの?」
美陽が恐る恐る尋ねると、
潤はハンドルを握る手を少しだけ強くした。
「……別に」
「別にって……」
「昔話さ」
それ以上、何も言おうとしない潤。
(嘘だ)
(潤は、何かを隠してる)
でも、美陽はそれ以上問い詰められなかった。
2. 交差する思い
美陽は、窓の外を眺めながら考える。
(潤は、何を話したんだろう)
(幸大は、何を思っていたんだろう)
そして――
自分は、何を思っているんだろう。
心の奥に、消えないざわつきがある。
「……美陽」
突然、潤が口を開いた。
「……幸大と、また話したい?」
美陽は、一瞬言葉に詰まった。
「……」
(話したいか?)
(いや、話せるのか?)
「……もう、話すことなんてないよ」
そう言った美陽の声は、
まるで自分に言い聞かせるようだった。
3. 幸大の心の中に残る違和感
一方その頃、
幸大は、聖羅と一緒にタクシーに乗っていた。
「幸大、疲れた?」
「いや……別に」
聖羅が幸大の肩にもたれかかる。
「今日は楽しかったね」
「ああ……」
幸大は、そう返しながらも、
心のどこかに小さな違和感が残っていた。
潤に言われた言葉が、
ふと頭の中をよぎる。
「お前こそ、本当に美陽を幸せにできるのか?」
「……」
(俺には関係ねぇよな)
そう思おうとするが、
どうしても、完全には振り払えなかった。
4. ふたりの間にできた小さな亀裂
「幸大?」
聖羅が、ふと幸大の顔を覗き込んだ。
「うん?」
「なんか、ぼーっとしてる」
「……そんなことない」
「そっか」
聖羅は、幸大の手を握る。
その手は温かいはずなのに、
どこか遠くに感じた。
(俺は、何を考えてるんだ)
(もう、美陽とは関係ない)
でも――
(本当に、それでいいのか?)
その問いだけが、
心の奥でくすぶり続けていた。
5. 美陽の選択
家に帰り、
美陽はベッドに横になりながら考えていた。
(幸大と話さなくてもいい)
(だって、もう関係ないんだから)
でも――
幸大の目が、一瞬だけ美陽を見た気がする。
あの視線は、何を意味していたのか。
考えれば考えるほど、答えが出ない。
スマホを握りしめ、
潤からのメッセージを開いた。
「今日はゆっくり休んで」
(潤は、私のことを大切にしてくれてる)
(私は、潤と生きていくんだ)
そう思おうとしながらも、
胸の奥のモヤは消えないままだった。




