第74話「出発の朝、残された手紙」
1. 出発の朝
朝の空気はひんやりとしていた。
幸大はスーツケースの取っ手を握り、
静かに家のドアを開ける。
(……じゃあな、母さん)
家の中に小さく呟く。
返事はない。
でも、もう振り返らなかった。
2. 誰にも言わずに向かう空港
バスに乗り、
幸大はただ車窓をぼんやりと眺めていた。
(誰にも言わずに行く)
(これでよかったんだ)
隣の座席には、
美陽に渡せなかった手紙。
(どうせ、読まれないまま、
どこかの引き出しで埃をかぶるだけだろうな)
3. 空港へ到着
空港のロビーは、いつも通り人で賑わっていた。
幸大は、スーツケースを引きながら、
搭乗ゲートへ向かう。
(これで、全部終わる)
そう思った瞬間――
「幸大!」
4. 聞き慣れた声
その声に、
幸大の足が、止まった。
振り返ると、そこには――美陽がいた。
美陽は、息を切らせながら駆け寄ってくる。
「なんで……なんで勝手に行くの!?」
「……」
「なんで、何にも言わないで……」
涙が、彼女の目から零れそうになっていた。
「なんで、私には……何も言わないの?」
6. 幸大の答え
幸大は、小さく息を吐いた。
「……ごめん」
それだけを、静かに言う。
そして、
スーツケースのポケットから、
手紙を取り出した。
「これ……お前に渡すつもりだった」
美陽は、震える手で手紙を受け取る。
「……幸大」
「美陽、幸せになれよ」
幸大は、
母が亡くなってから初めて、心からの笑顔を見せた。
「じゃあな」
そう言い残し、
彼は振り返る。
8. 旅立つ背中
幸大の背中が、
少しずつ遠ざかっていく。
「……待って」
美陽は、言葉を絞り出したかった。
でも、足が動かない。
涙が、ただ流れるだけだった。
(……行っちゃうんだ)
(もう、戻ってこないんだ)
心が、空っぽになっていく。
9. ひとり、帰りのバス
バスの座席で、
美陽は震える手で、幸大の手紙を開いた。
__美陽へ
俺は、小学校の入学式で出会ったころから美陽が好きでした。
いつも明るい美陽には、俺は救われていました。
家庭が不安定なとき、両親が離婚したとき、
そして、母さんが亡くなったとき。
俺はずっと、美陽に助けられていました。
でも、俺は誰も幸せにできない。
だから、美陽。
俺のことは忘れて、誰よりも幸せになってくれ。
俺はずっと、美陽の幸せを祈ってる。
幸大より
10. 止まらない涙
涙が、止まらなかった。
「……幸大、バカだよ……」
声に出すと、
余計に涙が溢れた。
(私が……ずっと好きだったのに)
(どうして、こんな形で終わるの……?)
でも、答えは返ってこない。
彼は、もうここにはいないのだから。




