第7話 夏祭りとすれ違いの夜②
2. クラスメイトとの遭遇
「おーい、美陽?」
聞き覚えのある声に振り向くと、そこには**長瀬潤**と数人のクラスメイトがいた。
「えっ、潤くん?」
「お前らも来てたんだな!」
潤は屋台の前でラムネを片手に笑っていた。
隣には同じクラスの女子たちが数人いて、美陽の姿を見つけると、パッと表情を明るくする。
「美陽ちゃんたちも来てたんだね! 一緒に回ろうよ!」
「え、えっと……」
美陽が戸惑っていると、蓮が軽く笑った。
「いいんじゃね? 人数多いほうが楽しいだろ」
「確かに。お祭りって、こういうノリが楽しいもんね」
梨沙子も落ち着いた声で同意する。
「……」
幸大は何も言わなかったが、少しだけ眉をひそめた。
美陽は周りの期待を感じながら、少しだけためらったあと、小さく頷いた。
「うん、じゃあみんなで回ろう!」
屋台の前を歩く一行。
たこ焼き、焼きそば、ヨーヨー釣り、金魚すくい――。
次々と屋台を巡りながら、わいわいと賑やかに楽しむ。
「お、射的あるじゃん! 俺、めっちゃ得意だから見とけよ!」
潤が意気込んで並ぶと、美陽がクスクスと笑った。
「潤くん、そういうの得意そう!」
「だろ? 俺、狙った獲物は逃がさないから」
「それ、なんか違くない?」
美陽と潤が楽しそうに話していると、幸大はその光景を黙って見ていた。
「……」
楽しそうに笑う美陽。
自然に距離を縮める潤。
(なんで、俺じゃないんだよ)
口に出せない言葉が、胸の奥で膨らんでいく。
蓮がそんな幸大の様子に気づき、にやりと笑った。
「なーんか、面白いことになってきたな」
「……うるせぇ」
幸大は短く言い捨て、視線を逸らした。
3. 美陽、はぐれる
「ちょっと、ラムネ買ってくるね!」
そう言って、美陽は少しの間みんなと離れ、屋台の列に並んだ。
(楽しいなぁ……!)
夏祭りの賑やかな雰囲気の中、クラスメイトたちとの交流は思っていたよりも楽しくて、時間があっという間に過ぎていた。
潤は頼れるし、蓮は面白いし、梨沙子は落ち着いていて安心感がある。
そして――
幸大はあまり喋らなかったけれど、ずっと一緒にいてくれた。
(……幸大、楽しんでるのかな?)
ちょっと気になりながら、ラムネを受け取り、お金を払う。
「よし、戻ろ――」
そう思った瞬間、人混みの流れに飲み込まれた。
「えっ、ちょっと……!」
気づけば、周りには知らない人たちばかり。
先ほどまでの賑やかな声が、遠ざかっていく。
「え、嘘……どこ?」
慌ててスマホを取り出そうとするが――
画面に映るのは『充電がありません』の表示。
「えええええ!? なんでこんな時に!」
美陽は焦った。
スマホなし、人混みの中、どこに行けばいいのかも分からない。
「と、とりあえず元の場所に戻ろう!」
焦る気持ちを抑えながら、再び人混みの中へと歩き出した。
一方その頃――
「おい、美陽がいねぇぞ!」
蓮が最初に気づいた。
「え?」
幸大が顔を上げ、美陽の姿を探す。
「さっきまでラムネ買いに行ってたよな?」
「時間経ちすぎじゃね? 連絡してみようぜ」
潤がスマホを取り出し、美陽に電話をかける。
しかし、コール音はならず、即座に留守番電話に繋がる。
「……電源切れてる」
「マジか……」
みんなの表情が一気に曇る。
「とりあえず、探そう!」
そう言って、それぞれ手分けして祭りの中を駆け出した。