第61話 幸大の覚悟、ただ見守ること
1. 美陽と潤のデート、その後
「……そっか、デート行ったんだ」
放課後、蓮が何気なく呟いた。
「まあ、付き合ってるんだから当然っしょ?」
「そうだな」
幸大は、スマホを見つめながら淡々と答えた。
画面には、クラスメイトたちのグループトークが映っている。
“美陽と潤、デートしたんだって!”
“やっぱお似合いだよね~!”
(……そうだよな)
(美陽には、もう”俺じゃない誰か”がいるんだ)
2. もう、何も言わない
デートの翌日。
美陽はいつも通り、笑顔で教室に入ってきた。
「おはよう!」
クラスメイトたちと楽しそうに話す姿を、
幸大はただ静かに眺めていた。
(楽しかったんだろうな)
(よかったな)
そう思う。
でも――
胸の奥に、何かが引っかかる感覚があった。
(……俺は、もう何も言わねぇ)
(ただ、“友達”として見てればいい)
それが、幸大が決めたことだった。
3. 遠くから見るだけの存在
昼休み。
幸大は一人、教室の窓際に座っていた。
窓の外には、中庭で楽しそうに話す美陽と潤の姿。
潤が美陽の髪を優しく撫で、
美陽がちょっと照れくさそうに笑っている。
「……っ」
幸大は、思わず目をそらした。
(何してんだ、俺)
(もう関係ないって、決めたのに)
4. それでも、心がざわつく
「……幸大」
ふと、隣から声がした。
「……梨沙子」
「ねえ、最近、美陽と話してる?」
「……別に」
梨沙子は、じっと幸大を見つめる。
「……変だよ」
「何が?」
「幸大って、いつも美陽のこと気にしてたのに……」
「気にしてねぇよ」
「本当に?」
「……本当だよ」
梨沙子は何かを言いかけたが、
それ以上は何も言わず、静かに席へ戻っていった。
5. それが正しい選択のはずなのに
放課後。
幸大は、美術室で一人、キャンバスに向かっていた。
描いているのは、何もない空。
色もなく、形もない。
ただ、“空っぽ”な景色。
筆を止めて、ふっと息をつく。
「……これで、いいんだよな」
呟いた言葉は、自分に言い聞かせるようだった。
(俺は、もう美陽の隣にはいない)
(それが、正しい選択なんだ)
そう思おうとしていた。
でも――
心の奥では、
何かがズレている気がしていた。




