第6話 夏祭りとすれ違いの夜①
1. 夏祭りの始まり
「やっぱり、浴衣っていいよな」
橋本蓮は、にやりと笑いながら隣を歩く**高瀬美陽**をちらっと見た。
「え、そう?」
美陽は、慣れない浴衣姿で少しぎこちなく歩きながら、蓮を見上げる。
「お前、いつもより雰囲気違うし、すげー可愛いって」
「……もう、そういうことすぐ言う!」
美陽はぷいっと横を向くが、少し頬が赤くなった。
「調子いいこと言ってるだけだから、気にしないで」
梨沙子が淡々と言うと、蓮は肩をすくめた。
「まぁまぁ、事実だろ?」
そんな賑やかなやり取りを聞きながら、**高橋幸大**は無言で歩いていた。
美陽の浴衣姿を見た瞬間、少しだけ目を奪われた。
だけど、それを悟られるのが嫌で、すぐに視線をそらした。
「……似合ってる」
ボソッと呟いた言葉は、誰の耳にも届かなかった。
夜の夏祭りは、すでに賑わいを見せていた。
屋台が立ち並び、焼きそばやたこ焼きの香りが漂う。
「わー! いっぱいある!」
美陽は楽しそうに目を輝かせた。
「何から食べよう?」
「まずはかき氷!」
「え、夜なのに?」
「お祭りっていったら、やっぱりかき氷でしょ!」
美陽がウキウキしながら並ぶと、蓮と梨沙子も後ろについた。
幸大は少しだけ後ろに下がり、黙ってついて行く。
「……」
彼にとって、祭りはただの行事に過ぎなかった。
でも、この時間だけは特別なものにしたかった。
ただ、それをどう表現していいのか分からなかった。
だから、何も言わずに、ただ美陽の後ろを歩いた。