第56話 小学四年生の夏、ショッピングモールの火事
1. 夏休み、ショッピングモールへ
「ねぇ、幸大! 今日はアイス食べよう!」
小学四年生の夏休み。
クラスの友達数人と一緒に、ショッピングモールへ遊びに来た。
暑い夏の日、モールの中は涼しくて過ごしやすい。
「俺、ソーダ味がいいな!」
「じゃあ私はチョコレート!」
「私はいちご!」
美陽は楽しそうにアイスを選びながら、
幸大に何度も「幸大は?」と聞いてきた。
「……なんでもいい」
「もうっ! そういうのなし!」
笑いながら、美陽が無理やりバニラのアイスを押し付ける。
「ほら、幸大の分!」
「……あぁ、ありがと」
(本当に楽しそうだな)
美陽の無邪気な笑顔を見ながら、
幸大は何となく、彼女が自分とは違う世界の人間に思えた。
(俺とは違って、何もかも自由で、幸せそうで……)
でも、もしその幸せが壊れそうになったら――
俺が守る。
そう、心の奥で改めて誓う。
2. 鳴り響く火災報知器
「――おい、なんか騒がしくないか?」
「え?」
突然、火災報知器のアラームが鳴り響いた。
モールの中に響く警報音と、慌てる人々の声。
「お客様へ、ただいま館内で火災が発生しました。スタッフの指示に従い、速やかに避難してください――」
スピーカーから流れるアナウンスに、
人々は一斉に出口へと向かい始める。
「やばっ、火事?」
「うそだろ……どこで?」
周囲の大人たちも騒然とし始める。
「とにかく、外に出よう!」
友達と一緒に走り出そうとしたその瞬間――
「美陽……?」
幸大は、違和感を覚えた。
さっきまで隣にいた美陽の姿が、見当たらない。
「……っ!! 美陽は!?」
3. 逃げ遅れた美陽
人の波をかき分けながら、必死で美陽を探す。
(どこだよ……っ!)
そして――視界の先、煙の中に、美陽の姿があった。
彼女は転んでしまったのか、足を抑えながら動けずにいた。
「……美陽!!」
美陽は、咳をしながら周囲を見回しているが、
人が避難する中で、誰も彼女に気づいていない。
(クソッ……!)
幸大は迷わず、煙の中へと飛び込んだ。
4. 美陽を守るために
「美陽!! 立てるか!?」
「……幸大!?」
美陽は驚いた顔で、幸大を見つめる。
「なんで来たの!? 逃げなきゃ――」
「お前が先に逃げろ!」
幸大は美陽の腕を掴み、無理やり引っ張り上げる。
「いくぞ!」
「……うん!」
美陽の手をしっかり握ったまま、幸大は必死に走る。
煙が充満していくモールの中、出口へと向かって。
5. 強く誓った”守る”という決意
「あと少し……!」
幸大が前を走り、ようやく非常口のドアを開けた瞬間――
ドンッ!!
上のフロアから、何かの看板が落ちてくる音がした。
美陽が思わず立ち止まる。
「大丈夫だから、行くぞ!」
「うん……!」
幸大は美陽の手を決して離さなかった。
(もう絶対に、こいつを失いたくない)
(俺が、こいつを守る)
6. 外に出た瞬間、こぼれた涙
外に出た途端、消防隊員が走り寄ってくる。
「君たち、大丈夫か!?」
「……はい、大丈夫です!」
息を切らしながら、幸大は美陽を振り返る。
「怪我……ないか?」
「……うん、大丈夫。でも、幸大……」
「?」
美陽は、涙をぽろぽろこぼしながら、幸大の腕をぎゅっと掴んだ。
「ありがとう……」
「……」
泣きじゃくる彼女を見て、
幸大はただ黙って、そっと頭を撫でた。
7. この日、幸大は確信した
この日、幸大ははっきりと確信した。
(俺は、美陽を守るために生きる)
彼女が笑っていられるように、
彼女が泣かないように、
彼女が困ったときは、すぐに助けられるように。
俺の役目は、ただそれだけだ。
美陽の隣にいるために、俺は強くなる。
幸大の中で、幼いながらに”覚悟”が生まれた瞬間だった。




