第52話 遠くから見た光景
1. 予期せぬ瞬間
夜の沖縄、静かな街の一角。
少し離れた場所から、幸大は偶然その光景を目にした。
月明かりの下、向かい合う潤と美陽。
そして、潤が美陽の唇に触れるのを。
「……っ」
幸大は、なぜ自分がこんなにも驚いているのかわからなかった。
わかっていたはずなのに。
美陽はもう、俺の隣にはいないって。
2. 見てしまった後悔
幸大は、何も言えずにその場を立ち尽くしていた。
彼らの姿は、遠くて、でもはっきりと見えた。
「俺のことだけ見ててよ」
潤の低い声が聞こえたような気がした。
美陽は、何かを言っていた。
何を言ったのかは、聞こえなかった。
だけど、潤の胸にそっと顔を寄せた美陽を見た瞬間、幸大は息をのんだ。
もう、俺が入る隙なんてないんだ。
3. 胸の奥に広がる痛み
(……何やってんだよ、俺)
何かを期待していたわけじゃない。
ただ、“見たくなかった”。
どんな形でも、もう見ないで済むと思っていた。
なのに、どうしてこんな形で目にしてしまうんだろう。
(もう関係ないだろ)
そう言い聞かせるたびに、
胸の奥がぎゅっと締めつけられるような痛みが広がる。
4. 何も言わずに、その場を去る
幸大は、ただ静かに背を向けた。
2人の姿が視界から消えていく。
遠くで笑い声が聞こえる。
観光客たちの楽しそうな話し声、店の音楽、
沖縄の夜は、そんな音で溢れているのに――
幸大には、すべてが遠く感じた。
5. 遠くなる美陽
(……もう、美陽は俺のものじゃねぇ)
それなのに、どうしてこんなにも胸が苦しい?
あの時、素直に気持ちを伝えていたら、
今もまだ、彼女の隣にいられたのか?
いや――違う。
美陽は、潤を選んだ。
だから、これは”当然の結果”。
わかっているのに、
心が、全然追いついてくれなかった。
6. それでも、笑っていなきゃいけない
「……笑ってりゃいいんだよ」
ポツリと、誰にも聞こえないように呟く。
自分がどう感じようが、美陽が幸せなら、それでいい。
それでも――
もう一度、彼女の名前を呼ぶことはできなかった。
幸大は、静かに夜の道を歩き出した。
誰にも見せることのない、苦しさを抱えながら。




