第47話 崩れるバランス - 幸大が支える聖羅
1. 変わらない時間、変わる気持ち
アトリエには、絵を描く音だけが響いていた。
筆がキャンバスに走る音、鉛筆が紙をこする音。
この静かな時間が、美陽にとっては心地よかった。
「幸大、ちょっとこっち見て」
「ん?」
美陽は筆を止め、幸大のキャンバスを覗き込む。
「やっぱり、すごいね……」
「大したことねぇよ」
「そんなことない。幸大の絵、昔から好きだった」
「……そっか」
幸大は短く返事をし、また筆を動かし始める。
変わらないやり取り。だけど、変わってしまった気持ち。
2. 崩れるバランス
「よし、そろそろ色を変えようかな……」
聖羅が席を立ち、棚の方へ向かう。
その瞬間――
「わっ!」
彼女の足元が滑った。
バランスを崩し、前のめりに倒れそうになる。
「危ねぇ!」
次の瞬間、幸大の腕が彼女を支えていた。
幸大の腕の中で、驚いた顔の聖羅。
「……大丈夫?」
「う、うん……ごめんね、幸大くん」
「気をつけろよ」
幸大は、聖羅を優しく立たせる。
その一部始終を、美陽はじっと見つめていた。
3. 美陽の胸に広がる痛み
(なんで、こんなに胸が痛いの?)
(もう、関係ないのに)
幸大が誰を支えようと、それは彼の自由。
それでも、あの瞬間、胸が締めつけられるような痛みを感じた。
「美陽ちゃん、大丈夫?」
聖羅の声に、美陽は慌てて笑顔を作る。
「うん、大丈夫。でも、聖羅ちゃん、気をつけてね」
「うん……ありがとう」
いつも通りのふりをする。だけど、心は全然いつも通りじゃなかった。
4. 変わらない幸大、変わる美陽
その後も、幸大は何事もなかったかのように絵を描いていた。
でも、美陽にはわかる。
彼は昔と何も変わっていない。
優しくて、冷静で、誰に対しても真っ直ぐで。
そして――自分にとって、特別な人だった。
(……私、やっぱり……)
美陽は、自分の気持ちを振り払うように筆を動かした。
だけど、胸の奥の痛みは、消えなかった。




