第45話 終わる悪意、変わる関係
1. 愛里の決断 - もう、こんなことはしない
愛里の手から、美陽の上履きがゆっくりと落ちる。
「……もう、こんなことしないわ」
その声は、小さく、震えていた。
「……」
幸大は、彼女の表情をじっと見つめた。
(こいつ……ようやく、気づいたか)
愛里の肩は、わずかに震えている。
彼女は、ただ潤が好きだっただけ。
それなのに、間違った方法でその気持ちを示してしまった。
(まるで、昔の俺みてぇだな……)
幸大は、かつて美陽に想いを伝えられず、ただ見守ることしかできなかった自分を思い出していた。
2. 愛里の涙 - こぼれ落ちる後悔
「……私、ずっと潤くんのことが好きだった」
愛里は、ポツリと呟く。
「なのに、こんなことしかできなかった……」
「潤くんは、いつもみんなに優しくて……それなのに、私だけには優しくしてくれなかった」
「……ちがう、優しくしてくれてた。でも、それが”恋愛の優しさ”じゃないって、わかってたの」
「それが苦しくて、どうしたらいいかわからなくて……」
「私は、ただ……」
涙がポタポタと床に落ちる。
3. 幸大の静かな声
「……俺も、わかるよ」
愛里は、ゆっくりと顔を上げた。
「俺も、美陽がずっと好きだった」
「でも、それを言えなかった。言わないことを選んだからな」
「だけど、お前みたいに間違った方法でどうにかしようとは思わなかった」
「俺が見てたのは、いつも笑ってる美陽だった」
「お前が好きだった潤だって、そうだったはずだろ」
「お前の好きな潤は、そんな小細工で振り向くような男か?」
「……っ」
「正々堂々と向き合えよ。それが、本当の”好き”だろ」
愛里の目に、もう一度涙が溜まる。
4. 愛里の決意 - 私は、私のままでいる
「……もう、こんなことはしない」
愛里は、絞り出すようにそう言った。
「私、ちゃんと自分で向き合う……」
「卑怯なことして、潤くんに振り向いてもらっても、それは本当の私じゃないから」
「……それがわかってるのに、私はずっと間違ってた」
「……バカだよね」
幸大は、ゆっくりと息を吐き出した。
「……まぁ、バカだな」
「でも、お前が自分で気づけたなら、それでいいだろ」
愛里は、泣き笑いのような顔をしながら、「……そうね」と小さく笑った。
5. 変わる関係 - 幸大が見守る未来
翌日、学校では少しずつ噂が収まっていった。
美陽に対する風当たりが弱まり、クラスメイトたちは次第に普通に接するようになっていく。
その中で――愛里は、美陽にいつものように話しかけた。
「おはよう、美陽ちゃん」
「……あ、愛里ちゃん!」
「今日も寒いね~、もう冬服のコート出した?」
「うん、昨日出したよ!」
何事もなかったかのように、美陽は笑った。
彼女は何も知らない。
愛里が自分を傷つけようとしていたことも、
そのことに気づいて罪悪感を抱いたことも。
(……その方がいいのかもね)
愛里は、小さく息を吐いた。
その後ろで、幸大は静かに二人の様子を見つめていた。
(あとは……お前次第だぞ、柳田)
見守ることしかできない幸大と、過去の自分を乗り越えようとする愛里。
二人は、それぞれの想いを抱えながら――少しずつ、新しい道を歩き始めていた。




