第4話 学級委員と新しい関係
第一部:高校時代
1. 学級委員の初仕事
「えー、学級委員の仕事なんだけど……」
放課後、教室の一角で、美陽と潤は担任の先生から説明を受けていた。
「まずはクラスの目標を決めて、学級日誌の管理、それから行事の運営の手伝いもお願いね」
「は、はい……」
美陽はノートにメモを取りながら、内心ため息をついた。
(思ってたより、めっちゃ大変じゃん……!)
「それから、生徒会との会議にも時々出てもらうことになるから、日程が決まったらまた伝えるね」
「了解です!」
横を見ると、潤は全く動じず、むしろ楽しそうに話を聞いていた。
(すごい……なんでそんなに余裕なの!?)
「じゃ、今日はこれで解散。よろしくねー」
先生が去ったあと、美陽は机に突っ伏した。
「はぁ……思った以上に大変そう……」
「まぁ、そうだろうな」
潤が笑いながら椅子を引いた。
「でも、そんなに落ち込むこと?」
「いや、だって……学級委員なんてやったことないし、私にできるのかな……」
「大丈夫だって。二人でやるんだし、俺もいるんだから」
潤は気楽そうに笑った。
「それに、美陽って意外としっかりしてるじゃん」
「え?」
「ノートちゃんと取ってたし、先生の話もちゃんと聞いてたし。やる気ないふりして、実はちゃんとやるタイプでしょ?」
「うっ……」
図星だった。
美陽は何かを言い返そうとしたが、潤の笑顔を見て、何も言えなくなった。
「ま、困ったら俺に頼れよ」
そう言って、潤は軽く肩を叩いた。
(……この人、ほんとにすごいな。)
少しだけ、頼もしく思えてきた。
2. いつもと違う昼休み
学級委員の仕事が始まってから数日後の昼休み。
「美陽、ちょっといい?」
潤が声をかけてきた。
「うん、どうしたの?」
「明日のHRで、クラス目標の発表があるから、ちょっと話し合わない?」
「あっ、そうだった! すっかり忘れてた!」
「やっぱり忘れてたか」
潤は苦笑しながら、美陽を教室の後ろの席に誘った。
「……で、どうする? クラスの目標って、何かいい案ある?」
「うーん……真面目なのがいいのかな? それとも、ちょっとユーモアがあったほうがいい?」
「そこだよなー。俺的には、真面目すぎるのもつまんないし、かといってふざけすぎるのもあれだし」
「確かに……」
二人で話しているうちに、周囲の視線が少し気になってきた。
ちらっと見ると、クラスの女子数人がヒソヒソと話しているのが目に入る。
(もしかして……私たち、ちょっと目立ってる?)
考えてみれば、潤はクラスでも人気がある。
性格も明るくて、運動もできるし、誰にでも優しい。
そんな潤と自分が一緒にいるのを、周りがどう見ているのか――少しだけ気になった。
「ん? どうした?」
「えっ?」
「なんか、ボーッとしてた」
「あ、いや、なんでもない!」
慌てて首を振る美陽に、潤は軽く笑った。
「まぁ、変に気負わずにいこうぜ。結局、楽しめればそれでいいんだから」
「……うん!」
3. 幸大の違和感
その光景を、教室の隅から静かに見ていた人物がいた。
高橋幸大。
彼は特に意識したつもりはなかった。
ただ、何気なく視線を向けたら、美陽と潤が並んで話しているのが目に入っただけだった。
けれど――
(なんか……気に食わねぇ)
理由は分からない。
ただ、潤が美陽と並んで、楽しそうに話しているのを見ると、何かが引っかかる。
「……」
隣に座っていた蓮が、それに気づいてニヤリとした。
「おいおい、そんなに睨むなよ?」
「睨んでねぇ」
「ほんとか? だって、お前、今めちゃくちゃ分かりやすくムスッとしてたぞ?」
「……そんなことはない」
幸大はそっけなく答えたが、蓮は納得していない様子だった。
「ま、でも潤って、わりとモテるからな」
「は?」
「いや、ほら。ああいうリーダータイプって、女子に人気あるじゃん? しかも、人当たりいいし、優しいし。美陽ともいい感じになったりしてな」
幸大は思わず舌打ちしそうになったが、ぐっとこらえた。
「……別に、関係ねぇだろ」
「そうか?」
蓮はニヤリと笑いながら肩をすくめた。
「でもさ、幸大、お前って美陽のことどう思ってんの?」
「……」
一瞬、言葉に詰まる。
「幼馴染、だろ?」
「ふーん。……まぁ、そういうことにしとくか」
蓮は意味ありげに笑った。
幸大は何も言い返せなかった。
ただ、自分の胸の奥に芽生えた「モヤモヤ」が、何なのかだけは分かっていた。
――それは、幼馴染としての気持ちではなかった。
4. すれ違いのはじまり
放課後、美陽と潤は学級委員の打ち合わせで少し遅くなった。
「じゃ、また明日!」
潤が手を振るのを見送りながら、美陽はふっと息をついた。
「はぁ……思ったより大変だけど、潤くんがいて助かるな」
そのまま帰ろうとすると、校門の近くで幸大を見つけた。
「幸大! まだいたんだ!」
「……たまたま」
「そっか、じゃあ一緒に帰ろ!」
美陽はいつものように歩き出すが、幸大はどこか無愛想だった。
「今日、潤とずっと一緒だったな」
「え?」
「学級委員の仕事、大変そうだな」
「うん、でも潤くんが結構引っ張ってくれるから、すごく助かるよ」
「……ふーん」
幸大は短く答え、それ以上何も言わなかった。
美陽は少しだけ違和感を覚えた。
(なんか、幸大……いつもより無愛想?)
けれど、その理由が分からないまま、沈黙の帰り道が続いた。
こうして――
幼馴染だった二人の距離は、少しずつ変わり始めていた。