第37話 美陽の動揺 - 知らなかった感情に気づく
アトリエの窓の外、冬の風が吹き抜ける。
美陽は、じっとその場に立ち尽くしていた。
(……幸大)
アトリエの中では、幸大と星羅が並んで絵を描いていた。
二人はほとんど会話をしていないのに、不思議と空気が穏やかだった。
言葉なんかなくても、二人だけの世界がそこにあるように見えた。
幸大の横顔は、真剣そのものだった。
筆を走らせる姿が、すごく綺麗に見えた。
星羅も、落ち着いた表情で幸大と同じ時間を過ごしていた。
美陽は、目を離すことができなかった。
1. 美陽の胸の奥に生まれた感情
(……私、何してるんだろう)
足が動かない。
このままじゃダメなのに、視線が釘付けになる。
(ただの友達なのに)
(……いや、今はもう、そうじゃないのかもしれない)
ずっと、幸大のことが好きだった。
小学生の頃から、ずっと、ずっと。
でも、文化祭の夜に幸大が「好きな人がいる」と言った言葉を聞いて、
自分じゃないんだって思い知らされて――
(だから、私は潤くんと向き合うって決めたんじゃなかったっけ)
(もう、幸大を見ないって……)
なのに、どうして。
どうして、こんなに胸が苦しくなるの?
2. 気づかないはずの気持ち
美陽は、自分が何を感じているのか分からなかった。
(私、潤くんと付き合ってる)
(幸大は関係ない)
なのに、心の奥がざわつく。
幸大の真剣な表情。
星羅と一緒にいる空気感。
二人の世界に、自分はもう入り込めないような気がして――
(……やめよう)
美陽は、その場を離れようとした。
だけど、その時。
幸大がふと手を止めて、星羅と視線を交わす。
その瞬間、二人が微笑み合った。
ほんの一瞬。
それだけなのに、美陽の心臓は、痛いくらいに締めつけられた。
(あ……嫌だ)
美陽は、どうしようもなく苦しくなり、慌ててその場を離れた。
3. 逃げるように、その場を去る
「……っ」
寒い風が、頬をかすめる。
でも、それ以上に心が冷たく感じた。
(なんで……こんなに苦しいの?)
自分の胸に手を当てる。
心臓が、痛いくらいにドクドクと鳴っていた。
(私……幸大が、誰かと一緒にいるのが嫌なの?)
そんなはず、ない。
幸大は、もう自分のものじゃない。
最初から、自分のものになったことなんてない。
それなのに――
(星羅と幸大が、特別な関係になったら……私は、どうするの?)
どうして、涙が出そうになるの?
4. 自分の気持ちに向き合うとき
学校に戻る途中、美陽は自分の中のモヤモヤを整理しようとした。
(幸大は、ずっと私の片想いだった)
(私は、告白する勇気もなくて、ずっと遠くから見てるだけだった)
(だけど、それを諦めて、私は潤くんと付き合った)
(それで、幸せなはずなのに)
どうして、私はこんな気持ちになってるんだろう。
潤と一緒にいると、すごく楽しい。
彼は私を大切にしてくれる。
でも――
幸大の隣にいたのが、自分じゃないことに、こんなに苦しくなるのはどうして?
答えが出ないまま、美陽はただ黙って歩き続けた。




