第35話 幸大の前進 - 潤と美陽を見ながらも前を向く
冬の冷たい空気が、頬をかすめる。
12月も半ばを迎え、教室の中にも年末の気配が漂い始めていた。
テスト期間が終わり、クラスは少しずつ緩んだ雰囲気になっていた。
そして――美陽と潤の交際も、すっかりみんなの中で「当たり前」のものになっていた。
「潤、今日も迎えに行くの?」
「当たり前だろ。俺の彼女だからな」
潤は飄々と笑いながら、周りのからかいに軽く肩をすくめる。
「もう、やめてよ!」
美陽はちょっとだけ頬を赤らめながら、潤の袖を引く。
「別に隠すことじゃないし、いいじゃん?」
「でも……」
そんな二人のやりとりを、幸大は何も言わずに見ていた。
1. 友人としての距離
最近、美陽とはあまり話していない。
話しかければ、普通に返してくれる。
だけど、前みたいに、何気なく隣にいて笑い合うことはもうなくなった。
(……これで、いいんだ)
美陽が選んだのは潤。
もう、俺が割り込む隙なんてない。
そう思いながらも――
気づけば、彼女の笑顔を探している自分がいる。
2. 幸大の変化
「なぁ、幸大」
放課後、蓮がいつものように肩を叩いてきた。
「最近、絵に集中してるらしいな?」
「あぁ」
「なんかさ、お前、ちょっと変わったよな」
「……そうか?」
「前よりも、何か吹っ切れた感じするっていうか」
蓮は軽く笑いながら言った。
「美陽のこと、気にしなくなった?」
その言葉に、一瞬だけ胸がざわついた。
だけど、幸大はゆっくりと息を吐き出しながら答える。
「……いや、気にしないわけじゃない」
「だよな」
「でも、前だけを見ようとは思ってる」
それが、強がりなのか、本心なのかはわからなかった。
でも、そう言葉にしないと、自分が前に進めない気がした。
3. 絵に向き合う時間
アトリエに足を踏み入れると、そこには静かな空気が広がっていた。
キャンバスの前に立つと、余計なことを考えずに済む。
筆を握り、色をのせる。
無心になれるこの時間が、今は何よりも心地よかった。
(俺は、俺の道を進めばいい)
そう言い聞かせながら、筆を走らせる。
その時――
「幸大くん」
扉が開く音とともに、聞き慣れた声が響いた。
振り向くと、そこには星羅が立っていた。
彼女は、静かに微笑みながら、キャンバスを持っていた。
「今日も一緒に、描いてもいい?」
幸大は、一瞬だけ考えてから、ゆっくりと頷いた。
「……あぁ」
――この時間が、また何かを変えていくことになるとは、まだ知らなかった。




