第28話 観覧車に乗る
ゲームセンターで遊び尽くしたあと、二人は夕暮れの街を歩いていた。
「いやー、クレーンゲームはなかなか難しかったな」
「でも、潤くん結構上手だったよ!」
「美陽のほうがセンスあったけどな」
軽い冗談を交わしながら、ふと顔を上げると、目の前には大観覧車がそびえ立っていた。
「お、観覧車か……」
潤が足を止めて、ふわりと笑う。
「乗ってみる?」
「えっ?」
美陽は一瞬驚いた。
観覧車。
それは、デートの定番。
二人きりの空間で、ゆっくりと上がっていくあの時間は、なんとなく特別なものに思えた。
「……」
「やっぱ、やめとく?」
潤が冗談めかして言うが、美陽はすぐに首を横に振った。
「いや……乗ろう!」
「よし、決まり!」
二人はチケットを買い、ゆっくりと回る観覧車の列に並ぶ。
1. 二人きりの空間
ゴンドラの扉が開き、二人は向かい合わせに座る。
ゆっくりと動き出したゴンドラ。
静かに揺れながら、徐々に地上から離れていく。
「……すごい」
美陽は窓の外を見て、思わず息をのんだ。
夕焼けに染まるみなとみらいの街。
赤とオレンジが入り混じる空が、海に反射して、まるで夢の中の景色みたいだった。
「綺麗だな」
潤も隣で、静かに景色を見つめている。
「……なんか、こういうのって、ちょっと緊張するな」
「え?」
美陽は驚いて潤を見る。
「観覧車って、二人きりになるからさ。なんとなく、特別感あるだろ?」
「……う、うん、確かに」
「お前、意識してる?」
「えっ!?」
美陽は慌てて首を横に振る。
「そんなことないよ! ただ、ちょっと……」
「ちょっと?」
「……こういうの、初めてだから」
そう言った瞬間、潤がじっと美陽を見つめた。
「……」
「な、何?」
「いや、お前って、ほんと分かりやすいなって」
潤はクスッと笑いながら、膝に腕を置いた。
「別に、無理に意識する必要はないよ。ただ……」
「ただ?」
「俺は、今の時間、結構好きだけどな」
「……」
ドキン、と心臓が跳ねた。
冗談めかした言い方じゃない。
本当に、素直な気持ちを言ってるような、そんな感じがして――
美陽は、なぜか視線を外してしまった。
「……」
「美陽?」
「……わ、私も楽しいよ!」
慌ててそう言うと、潤は満足そうに微笑んだ。
「そっか、それならよかった」
ゴンドラはゆっくりと最高地点へ。
二人はしばらく何も言わず、沈む夕日を眺めていた。
2. 幸大の姿
観覧車から降りたあと、二人は広場を歩く。
「いやー、結構良かったな」
「うん……」
美陽は、まだ少しドキドキしていた。
(なんか、今日はいつもと違う……)
潤の言葉が、胸の奥に静かに残っている。
そんな時――
ふと、視界の隅に見覚えのある後ろ姿が映った。
(え……?)
目を凝らすと、そこには――
幸大の姿があった。
「……幸大?」
彼は、一人で歩いていた。
こちらには気づいていない。
(なんで……こんなところに?)
美陽は思わず立ち止まった。
すると、隣にいた潤が、その視線の先を追う。
そして、小さく「……なるほどな」と呟いた。
「美陽、どうする?」
「え?」
「話しかけるか?」
「……」
どうしよう。
幸大がここにいる理由は分からない。
でも、もし話しかけたら――
美陽の中で、今日の楽しかった時間が、少しだけ揺らぎそうな気がした。
「……やめとく」
小さく、そう答えた。
潤は少し驚いた顔をしたが、すぐに微笑んだ。
「そっか。じゃあ、行こっか」
「……うん」
美陽は、幸大の背中を横目に見ながら、そっと歩き出した。
だけど、心の奥で何かが引っかかる。
(なんで、幸大……ここにいたんだろう)
それが、偶然なのか。
それとも、違うのか。
――その答えを知るのは、もう少し先の話だった。




