第22話 文化祭 - 揺れる想い、交差する気持ち
7. 文化祭終了 - 忘れ物と、衝撃の言葉
文化祭が終わり、クラスの片付けもひと段落した夕方。
「終わったー!!」
「お疲れー!」
クラスメイトたちが次々と教室から出ていく中、美陽は大きく伸びをした。
「……ふぅ、やっと終わった」
舞台も無事成功して、クラスは一体感に包まれていた。
「美陽、一緒に帰ろう?」
「うん、梨沙子!」
美陽は梨沙子と並んで校門へ向かった。
空はすっかり夕焼けに染まり、夏の名残が微かに残る風が吹いている。
「なんか、あっという間だったね」
「ほんと、それ。舞台もすごくよかったよ、美陽」
「ありがとう……」
少し照れながら、靴を履き替えようとしたその時――
(あ……忘れ物)
美陽は、ふとポケットを探って、自分のハンカチがないことに気づいた。
「梨沙子、ごめん! 私、ちょっと忘れ物したから先に帰ってて」
「え、大丈夫?」
「すぐ取ってくる!」
そう言って、美陽は再び教室へ向かった。
8. 教室の前で聞こえた言葉
教室の前まで来た時、ドアに手をかけようとした。
しかし、その瞬間、中から誰かの声が聞こえた。
「私、幸大くんが好きなの」
――心臓が止まりそうになった。
(……え?)
反射的に息を呑む。
教室の扉の向こうから、女の子の声が聞こえる。
「ずっと前から、好きでした」
「……」
美陽の手が、小さく震える。
次の瞬間、幸大の低い声が静かに響いた。
「……ごめん」
美陽の心臓が、大きく跳ねた。
「俺は、好きな人がいるんだ」
世界が、一瞬で崩れ落ちるような感覚だった。
(幸大……好きな人がいるんだ)
教室の扉の向こう。
そこにいるのは、自分じゃない。
(そうだよね……)
(あんなに、聖羅ちゃんと仲良く話してたし)
(私が知らない幸大の表情、たくさん見せてたし)
(きっと、ずっと好きだったんだ)
涙が、こぼれる。
胸が苦しくて、息ができない。
だけど、幸大に気づかれるわけにはいかなかった。
(今、ここで見つかったら……もう、ダメだ)
美陽は、ゆっくりと後ずさり、誰にも気づかれないように教室から離れた。
――その間も、涙は止まらなかった。
9. 校門の前、潤の温もり
校門の前まで戻ってきた時、涙を拭おうとするが、全然止まらない。
「っ……」
どうして、こんなに泣いてるんだろう。
どうして、こんなに苦しいんだろう。
幸大が好きな人を想っているなら、応援すべきなのに。
(私が、幸大を諦められたらよかったのに)
「……美陽?」
突然、誰かの声がした。
顔を上げると、校門の前に潤が立っていた。
「……潤くん?」
潤は、美陽の濡れた頬を見て、一瞬だけ表情を曇らせた。
「……何があった?」
「……な、何もないよ」
美陽は笑おうとするが、潤は何も言わずに近づいてきた。
そして――
そのまま、そっと、美陽を抱きしめた。
「っ……」
びっくりして、目を見開く。
「……」
潤は、何も言わなかった。
ただ、美陽が泣き止むまで、優しく抱きしめ続けた。
その温もりが、今の美陽には痛いほど優しくて、余計に涙が止まらなくなった。
(どうして、こんなに潤くんは優しいの?)
そして、その優しさにすがるように、そっと目を閉じた。
エピローグ:それぞれの夜
その夜――
幸大は、自分の部屋でベッドに横になりながら、ふと天井を見つめていた。
(……結局、文化祭、ほとんど美陽と話せなかったな)
考えたくなくても、頭の中に浮かんでくるのは、舞台の上で涙を流していた美陽の姿。
(お前は、何を思って泣いたんだ)
(潤の言葉に、心を動かされたのか?)
(……俺は、それが嫌だ)
(美陽は、俺の――)
そこまで考えて、幸大は唇を噛みしめた。
「……ダメだな」
言葉にしてしまったら、もう後戻りできない気がした。
けれど、確かに胸の奥で警鐘が鳴っている。
(このままだと、俺は、美陽を――)
幸大は、手を伸ばしても届かないものを、遠くに感じていた。
それが何なのか、まだはっきりとは言葉にできなかったけれど。
――文化祭の夜は、それぞれの心に大きな変化をもたらした。




