第20話 文化祭 - 揺れる想い、交差する気持ち
3. 文化祭当日 - 離れていく距離、思い出す気持ち
文化祭当日――。
校内は色とりどりの装飾と人の賑わいで満ちていた。
屋台の香ばしい匂い、吹奏楽部の演奏、遠くから聞こえるクラスの呼び込み――
どこを歩いても、楽しそうな声が響いている。
「よし、演劇は午後からだから、それまでは自由時間だな!」
クラスメイトが盛り上がる中、美陽は潤の方を見た。
「潤くん、何か食べに行く?」
「あー、ちょっと待って。今、めっちゃ人に呼ばれてるんだけど」
美陽が声をかけた瞬間、潤はすでに女子たちに囲まれていた。
「潤くん、写真撮って!」
「え、これ制服? かっこよすぎる!」
「演劇の主演ってマジ? 見に行くね!」
「お、おう……」
潤は苦笑しながらも、対応に追われていた。
「……うわぁ、めっちゃモテてるね」
美陽は少し苦笑しながら、ひとりその場を離れた。
(まぁ、潤くん人気あるし、仕方ないか)
そんな時――
「……暇なら、回るか?」
ふいに、後ろから聞き慣れた声がした。
振り向くと、そこには幸大が立っていた。
4. 幸大とまわる文化祭
「……え?」
「演劇まで時間あるんだろ」
「……うん!」
思わず、嬉しそうに頷く。
気がつけば、幸大と二人で文化祭を回ることになっていた。
「たこ焼き、食うか?」
「うん、せっかくだし!」
たこ焼き屋台の前に並びながら、美陽は幸大と並んでいることを、なんとなく意識してしまう。
「……懐かしいな」
「え?」
「小学生の頃も、よくこんな風に屋台のたこ焼き食ってた」
「……あぁ、そういえば!」
あの頃、夏祭りでたこ焼きを買って、幸大が「熱いのに丸ごと食べるからこうなるんだよ」って呆れながら冷ましてくれたことを思い出す。
「変わんないね、幸大は」
「お前もな」
そんな何気ない会話が、美陽の心をじんわりと温かくする。
(やっぱり……私は、幸大が好きだ)
それを改めて自覚しながら、隣を歩く幸大の横顔をそっと盗み見る。
だけど――
次の瞬間、その温かさが、すっと冷たくなった。
5. 聖羅の登場 - 心がざわつく
「幸大くん!」
はっとして振り向くと、そこにいたのは――星野聖羅。
「……聖羅」
幸大の表情が、一瞬で柔らかくなる。
「久しぶりだね。文化祭、ちょっと見に来たんだ」
「お前、ここまで来たのか」
「うん、幸大くんの学校、一度来てみたかったし」
幸大は特に驚いた様子もなく、当たり前のように会話をしている。
それを見て、美陽の心がざわついた。
(なんで……こんなに自然なの?)
(なんで……私と話す時と違うの?)
聖羅が幸大に話しかけるたびに、胸がぎゅっと締めつけられる。
「あの……」
そう言いかけたが、声が出ない。
「美陽?」
幸大が振り向く。
「ご、ごめん! そろそろ舞台の準備しないと!」
咄嗟にそう言って、美陽はその場を離れた。
逃げるように、走り出す。
(なんで私、こんなに動揺してるの?)
幸大と聖羅が話す姿。
幸大の、優しい声。
私が見たことのない、柔らかい表情。
全部が、胸を締めつける。
(……嫌だ)
(こんな気持ち、嫌だ)
でも、私はもう分かってる。
――幸大は、聖羅が好きなんだ。
だから、こんなに優しくて、だから、あんなに自然に話せる。
だから……だから私は、あそこにいちゃいけない。
「……舞台の準備、しなきゃ」
涙がこぼれそうになるのをこらえながら、美陽は舞台の控室へと向かった。
だけど、その後もずっと、心の奥のざわめきは消えなかった。




