第15話 過去編 - 幼い日の出会いと揺れる気持ち
3. 小学四年生のショッピングモール火災
小学4年生の夏休み
「みんなでショッピングモール行かない?」
クラスの友達の提案で、数人のグループで遊びに行くことになった。
「いいね! 久しぶりにみんなでお出かけしよう!」
美陽はワクワクしながら、夏休みらしいお出かけに心を躍らせた。
そして――
当日、ショッピングモールに着いた美陽たちは、アイスを食べたり、ゲームセンターで遊んだりして楽しい時間を過ごしていた。
「ちょっとお手洗い行ってくるね!」
そう言って、美陽は一度みんなと別れた。
お手洗いから出て、友達がいるフロアへ戻ろうとした時――
「……ん? なんか、焦げ臭くない?」
ふと、鼻をくすぐる異変。
次の瞬間――
「火事だ! みんな逃げろ!」
遠くから、大人の叫び声が聞こえた。
「えっ……?」
状況が飲み込めないまま、周囲がざわつき始める。
「マジで火事!? やばい、逃げないと!」
人々が一斉に非常口へ向かって走り出す。
「え、え……ど、どうしよう……」
美陽は人混みに流され、気づけばどこにいるのかわからなくなっていた。
「みんなは……どこ?」
周囲にはもう、知っている顔はなかった。
そして、どこからか黒い煙が漂ってくる。
視界が少しずつ霞んで、喉がヒリヒリし始めた。
「や、やばい……!」
足がすくんで、動けなくなる。
その時――
「美陽!!」
聞き慣れた声が、遠くから響いた。
「え……?」
人混みをかき分けて、走ってくる少年の姿。
――幸大だった。
「何やってんだ! 早く逃げろ!」
「で、でも……怖い……足が動かない……」
「バカ!」
幸大はため息をつきながら、美陽の手を強く握った。
「いいから、ついてこい!」
「えっ……」
「俺がいるから、大丈夫だろ」
その言葉と、強く引かれる手の温かさで、ふっと恐怖が和らぐ。
(あ……そっか)
(幸大くんは、いつもこうして私を助けてくれるんだ)
必死に走る幸大の背中を見ながら、美陽は不思議と安心していた。
やがて、無事に非常口へとたどり着き、外へ脱出することができた。
「はぁ……はぁ……」
モールの外に出て、ようやく一息ついた。
「よかった……ほんとに……」
美陽は安堵のあまり、その場に座り込む。
そんな彼女を見下ろしながら、幸大がぼそっと言った。
「……マジで、バカ」
「えっ?」
「怖いからって立ち止まるなよ。こっちが心臓止まるかと思ったじゃねぇか」
「……ごめん」
美陽はしゅんとする。
「……でも、助けてくれてありがとう」
そう言うと、幸大は照れくさそうにそっぽを向いた。
「別に。俺が勝手にやっただけ」
「でも、本当にありがとう……」
そう言いながら、美陽は自分の胸の中に芽生えた感情に気づいてしまった。
(ああ……私、この人が好きだ)
幸大の言葉も、手の温かさも、全部が心の中に響いた。
火事の煙で曇った空の向こうに、夏の青空が広がっていた。