第13話 過去編 - 幼い日の出会いと揺れる気持ち
1. 小学校の入学式(美陽と幸大の出会い)
4月――
桜の花びらが舞い散る小学校の校庭。
少し緊張した表情の子どもたちが、ピカピカのランドセルを背負いながら、ぞろぞろと体育館に集まっていた。
「1年1組の子は、こちらの列に並んでくださいね~!」
先生たちの誘導に従いながら、小さな身体の子どもたちが整列していく。
その中に、ひとり、少し不安そうに立っている少女がいた。
高瀬美陽。
初めての小学校生活。
幼稚園の友達は、別の学校に行ってしまった子も多くて、知らない子ばかりの教室に向かうのが少し怖かった。
(大丈夫かな……)
不安な気持ちを抱えたまま、指定された席に座ると、隣の席の男の子がちらりとこちらを見た。
「お前、緊張してんの?」
少し生意気そうな声だった。
美陽は驚いて、隣の男の子を見た。
少しぼさっとした黒髪、きりっとした目つき。
「……うん、ちょっとだけ」
そう言うと、彼はふっと鼻を鳴らした。
「ふーん。俺は別に緊張しねぇけど」
「えっ?」
なんだか偉そうな言い方に、美陽は思わずむっとした。
「じゃあ、最初の自己紹介とかも平気なの?」
「まあな」
「すごいね……」
感心するように呟くと、彼は少しだけ得意げな顔をした。
「お前、名前なんて言うの?」
「あっ、私は高瀬美陽」
「俺は高橋幸大」
「こうだいくん?」
「いや、ゆきひろ」
「ゆきひろ……なんかかっこいい名前だね」
そう言うと、幸大はちょっと目をそらして、ぼそっと呟いた。
「……まあ、悪くねぇだろ」
美陽は、なんだかちょっと面白い子だな、と思った。
緊張していた気持ちが、少しだけ軽くなる。
(この子と一緒なら、大丈夫かも)
そんな風に感じた、入学式の朝だった。