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15年目の愛  作者: みいな
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第12話 海と波と、揺れる想い

6. 幸大の視線


「……」


少し離れた場所で、**高橋幸大たかはし ゆきひろ**は黙って二人の様子を見ていた。


波打ち際を並んで歩く美陽みはるじゅん

会話の内容までは聞こえないが、二人の距離が徐々に近づいていくのがわかった。


「おいおい、また潤に持ってかれてるな」


隣で**れん**がニヤニヤしながら言う。


「……別に」


「マジで言ってんの?」


「どうでもいいだろ」


「へぇー?」


蓮は軽く肩をすくめながら、幸大をからかうように笑った。


「俺はお前のそういうとこ、もどかしいと思うけどな」


「……何が」


「言わなきゃ、伝わらないんだぞ?」


「……」


幸大は何も答えなかった。


でも、胸の奥がざわついていることだけは、自分でも分かっていた。


7. 波打ち際での会話


「ねえ、潤くん」


「ん?」


「なんで私のこと、こうして誘ってくれるの?」


「え?」


「なんか、気づいたら潤くんといる時間、増えたなって思って」


「……まぁ、たまたまだろ」


潤は軽く笑った。


「たまたま?」


「お前が学級委員になったときから、一緒にいる機会増えたじゃん? 祭りのときも、こうして海に来ても、別に俺が意識してたわけじゃない」


「そっか……」


美陽は少し考えながら、波打ち際に足をつける。


「でも、なんとなく……潤くんは私のことをよく見てくれてるなって思うよ」


「そうか?」


「うん。委員の仕事とか、困ってるときにいつも助けてくれるし」


「ま、俺が気づきやすいだけかもな」


「……」


その言葉に、美陽は少し胸がくすぐったくなるような気持ちになった。


「でもさ、潤くんって、なんか不思議だよね」


「何が?」


「すごくみんなに気を使ってるのに、たまにめっちゃ自由な感じがする」


「……よく言われる」


潤は少し笑った。


「まぁ、俺は人に合わせるのも好きだけど、自由にしてる方が気が楽なんだよな」


「自由、かぁ……」


美陽は、波の音を聞きながら、小さく息を吐いた。


「美陽はどうなんだ?」


「え?」


「お前は、そういうの気にするタイプ?」


「うーん……私、昔から流されやすいっていうか、自分の気持ちを優先するのが苦手だったかも」


「へぇ」


「だから、潤くんみたいに『気にせずに行動できる』って、ちょっと憧れるかも」


「……そうか」


潤は少し目を細めながら、美陽の顔を見つめた。


美陽も、その視線に気づいて、少しだけ心臓が跳ねるのを感じた。


「……」


でも、そのまま沈黙が流れるだけだった。


(なんだろう、この雰囲気……?)


だけど、それ以上は何も言わず、美陽はまた波打ち際に目を向けた。


8. 夕暮れと揺れる気持ち


海の夕日が沈みかける頃、みんなはビーチパラソルの下に戻っていた。


「よし、そろそろ帰るか」


蓮がそう言うと、梨沙子が荷物をまとめ始める。


「楽しかったね」


美陽が言うと、梨沙子はクスッと笑った。


「うん。でも、結局幸大くん、あんまり遊ばなかったね」


「え?」


美陽は幸大をちらりと見る。


彼はいつものように、少し離れた場所で座っていた。


「……」


美陽は少し考えたあと、幸大の隣に座った。


「ねえ、幸大」


「……何」


「今日、楽しかった?」


幸大は少し考えてから、ボソッと呟いた。


「……まぁ」


「ほんと?」


「嘘ついても意味ないだろ」


「うん……」


美陽はちょっとだけ笑った。


その横で、幸大は海を眺めながら、ふと呟いた。


「……昔はさ、お前がこういうとこに来ると、俺の後ろばっかついてきてたよな」


「え?」


「小学生の頃、川遊びとかでも、俺のすぐ後ろにいてさ。はしゃぎすぎて転んで泣いてたの、覚えてる」


「あ……そんなこともあったっけ」


懐かしい記憶が蘇る。


「今はもう、そういうの、ないんだな」


「え?」


「別に」


幸大はそう言って立ち上がる。


「行くぞ。電車、混むだろ」


「あ、うん!」


美陽は急いで荷物を持ち、みんなの元へ戻った。


でも――


幸大の言葉が、なぜかずっと胸に引っかかっていた。


(幸大、今……少し寂しそうだった?)


波が静かに引いていく。


でも、心の中に残ったものは、まだ消えてくれなかった。


エピローグ:それぞれの帰り道


帰りの電車、座席に並んで座る5人。


みんな疲れていて、少しだけ静かな時間が流れる。


「……」


美陽は、ちらりと隣に座る幸大を見た。


彼は窓の外を見ていた。


その隣には、潤がいる。


(私、どっちのことを考えてるんだろう)


海に沈んだ太陽は、もうすっかり見えなくなっていた。


だけど、美陽の中には、今日の出来事がまだ静かに残っていた。


――波とともに、心も揺れる。


それが何を意味するのかは、まだわからないまま。

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