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第一章/第八幕:『九十九』

「――桜目律だな?」


 信号機三人娘がいなくなってから数時間。

 ベッドで目を閉じてぼんやりと暇を持て余していた最中に機械音声で名前を呼ばれ、律は鉄格子へと視線を向けた。

 其処に立っていたのは軍服を身に纏う者。ガッチリした体格から男であることは予想できた。しかし、風変わりなのは頭全体を隠すように装着しているフルフェイスの仮面だ。

 何処ぞの黒の騎士団CEO、或いは生ける伝説となった科学者染みた風貌をまさか現実で目の当たりにするとは思わず、律は反射的に瞬きをしてしまった。


「急な訪問で申し訳ない。それなりに多忙の身でね」


 抑揚の無い機械音声で仮面の者は言う。

 律はベッドから起き上がり、鉄格子の前に立つ。


「どちら様ですかね?」


「……失礼した。私の名は九十九(つくも)。敬称は不要だ。天竺女史から君の話を聞いて立ち寄らせてもらった次第だ」


 仮面の者――九十九は深々と頭を下げた。見た目に反して随分とまともな人柄の様子だった。


「はあ、それはどうもです。とは言っても、俺を訪ねて来られても面白いことないっすよ?」


「ふむ、君の尺度で判断するのであればそうなのだろう。しかし、私にとってそれは違うだけの話だ」


 機械音声でそう答える九十九に、律は「はぁ」と間の抜けた返事を返す。


「随分と腑抜けた声だ。魔女を目の当たりにして、その姿勢ならばある意味で大物と言えるな。まあ、所詮は平和ボケしたところか(・・・・・・・・・・)ら転移して来た餓鬼(・・・・・・・・・)ではあるか」


 九十九の言葉に律はムッとすると同時に、その言葉に目を見開く。

 この仮面の男は何と言った?

 平和ボケしたところから転移して来た餓鬼――それは律の境遇を知っているということだ。律は別の世界から来たことを誰にも告げてはいない。葵は何かしらの違和感を抱いているようではあったが……。


「そう警戒する必要はない。少なくとも組織としては君の安全を保証するつもりだ。しかし、実際に目の当たりにすると実に嘆かわしい限りだ」


「…………随分なもの言いっすね」


「今の君には理解(わか)るまいよ。だが、生活していく中で嫌でも知るだろう。この世界はどうしょうもないほどに救いがなく、行き詰まっていることにな」


 言いたいことを言い切ったのか、九十九は踵を返し、律へと背を向ける。

 律としては散々嫌味を言われただけだ。

 ――と、九十九が背を向けたまま歩みを止め、一方的に問いの言葉を投げてきた。


「ああ、君の記憶の中の彼女――姉である桜目雪(さくらめゆき)は周囲と比べても変わらないほどに普通だったかね?」


 豪速球。あまりにも埒外な問い。何よりも此処で聞くことになるとは思いもしなかった家族の名前に、律は九十九の背に向かって言葉をぶつける。


「待て! アンタが何で俺の姉さんを知っているんだ!?」


 この世界は異世界。律がいた世界とは異なる故に、痕跡は何も無いはずだ。

 ならば、仮面の男である九十九も律と同じ世界出身であり、姉とは知り合いだったことが考えられる。

 律の問い掛けに、九十九は振り返らずに答えた。


「何で? それは私が九十九(わたし)であることに他ならないからだ。だが残念ながら、その答えを――今はまだ語るべき時ではない」


 それだけを言い残し、九十九は立ち去っていく。

 律はその遠くなる背だけを見つめながら――、


「何だってんだよ……」


 と、小さく呟くのだった。

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