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第一章/第七幕:『投獄』

 魔女はリリアーナの放った長文詠唱魔法によって、その周辺に在った物と共に一切の痕跡を残すこともなく燃え尽き消失した。

 その後、行く当ての無い律は葵に付き従う形で人々が生活を営む居住区域へやって来たのだが……。

 キィー、ガッチャン――と、律自身も驚くほどに流れるように且つスムーズな動作で牢屋へと投獄されたのだった。


「……何でさ?」


 唖然としている律の呟きに対して、鉄格子の向こうで天竺さんが呆れ顔を浮かべながら口を開く。


「幾ら私であろうとも君の自由を与えるには、それなりの手続きを取る必要があるのだよ。現在の君の立場は『魔女顕現地域に許可なく立ち入った怪しい人物』以外の何者でもないのさ。更に付け加えるなら君には戸籍が存在していない。そんな身元確認すらできない正体不明な人物が(ちまた)に出歩いたとなれば厄介ごとにしかならないぞ?」


 そんな正論に律は「ぐぬぬ……」と声を漏らす。

 まあ、律としても厄介ごとに遭遇することは勘弁ではあるし、待つことで怪しい人物のレッテルが無くなるのであれば良しとする。

 だがしかし、それでも牢屋に投獄はないと律は思う。

 彼の文句を言いた気な表情を察したのか、葵が至極真面目な顔で言う。


「牢屋への投獄に関しては悪いとは思っている。君が普通の人間であれば普通な部屋の一室を準備しても良かったのだがね。だが、忌々しいことに君の中には魔女因子が存在している。幾ら君が善良な者であるとはしても、周囲は簡単にそれを許さないのさ」


「……黙っていればバレないのでは?」


「はぁ……どうやら君には考えが甘いところがあるようだ。これでも私は軍人なのだよ。得た情報は正確に伝える義務がある。何故ならば軍は民を守ることを生業としているからだ。私個人の感情で情報の取捨選択を行い、仮にその隠していたモノで周囲に大きな被害を及ぼした時――いったい誰が責任を取るのかな? 当然、重要な情報を隠していた私の責任は免れないが、それ以外にも所属している軍にも矛先は向けられる。軍とは民からの委任と信頼によって成り立っているのだよ。その委任と信頼が必要ないのであれば、それは信用を金で与える猟兵団(イェーガー)と変わらんよ」


「…………」


「さて、これ以上の問答が無いのであれば、私は一度失礼する。遅くとも明朝には解放されるように動く予定ではあるから、大人しく投獄されてほしい」


 律は牢屋内を見渡してみる。

 古めかしい洋式トイレと寝心地の悪そうなペッラペラな布団と枕が供えられたパイプベッド。それには所々に錆が見受けられる――実に悪辣な居住環境である。

 しかし、ここで文句をタラタラと述べたところで状況が好転するワケでもない。葵も律のために労力を割いているのだから不本意だとしても受け入れることが筋だろう。

 そもそも世界に律の居場所がない以上、変に物事を荒立てるのは何一つとして良いことがない。長いものには大人しく巻かれる――それが律のアイデンティティ。


理解(わか)りましたよ。ここで大人しくするさ」


「それは良かったよ。まったく最近は君を含めて厄介ごとあまりにも多過ぎる」


 そうボヤキながら葵は立ち去って行く。

 ――と、入れ替わるように律の牢屋の前にやって来た人影が三つ。


「本当に投獄されているわね」


「うへぇ、可哀そうだにぃ」


「まあ、天竺さんにも立場があるのだから仕方ないわよ」


 三者三様の反応をするリリアーナ、凛、菖蒲。


「よぉ、お三方。哀れにも投獄された俺を笑いに来たのか?」


「まあ、それもあるわね」


「あるのかよ……」


 にっししと笑うリリアーナに律はジト目を向ける。

 が、菖蒲がニヤニヤと笑みを浮かべながら口を挟む。


「こんなことを言っているリリィちゃんだけど、彼方が投獄されるって話を聞いた時には誰よりも熱心に抗議していたのよ?」


「はーい菖蒲、余計なことを言わないでくれるかしら?」


「照れてるリリィっちはツンデレだにぃ?」


「は、はぁ⁉」


 鉄格子の向こう側で信号機娘がわちゃわちゃと騒ぎ始める。

 眺めている分には非常に微笑ましい光景なのだが、律としては鉄格子越しでは見たくなかった。


「んんっ! とにかく、アタシたちとしては折角助けた奴が理不尽にも投獄されたと聞いたから、慰めも兼ねて会いに来たって理由(ワケ)よ!」


 少しばかり顔を赤くしたリリアーナが声高々に律へと告げる。なお、その隣にいる二人は楽しそうにニヤニヤしているが触れないことにする。


「それはありがたいな。ありがた過ぎて涙がちょちょ切れそうだぜ」


「微塵も感謝の念が感じられないにぃ……」


「アンタねぇ……」


「はーい、そこのちみっこ小娘さん? 根拠のない言葉は止めてくれない⁉ リリアーナの視線が鋭利なナイフみたいに鋭くなってるからさ!」


「あらあら、みんな仲良しですね」


 鉄格子越しで喚きまくる彼女たち。「さぞ他の受刑者は迷惑しているだろうな」と、律は思うのだった。

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