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第一章/第六幕:『生命巡廻の聖焔(アグニカ・リンカーネイション)』

「んー? おお、アンタがリリィっちが遭遇したって常識をマミィの原の中に置いてきたお兄さんかにぃ?」


 律の姿を捉えたちんまりした少女が物珍しそうに近寄って来た。そして、周囲をぐるぐる回りながら、つぶさに観察し始める。


「うーむ、ざっくり筋肉の付き方と立ち姿から鑑みた結果――凛的にはお兄さんは戦場で真っ先に死んじゃう噛ませ犬ポジと見たぜい」


 あまりにも失礼極まりない言い草に律は思わず「えぇ……」と情けない声を溢す。

 しかし、彼のそんな様子には目もくれず、ちんまい少女は「ふむふむ、ほーほー」と意味深な声を上げる。


「凛ちゃん、あんまり彼を困らせないのよ」


「えぇ~、だけどさぁ菖蒲っち? あのリリィっちがそこら辺で拾って来た男なんだぜぃ? 徹底的に弄り倒さにゃ損だぁよ」


 おっとりとした口調で菖蒲っちと呼ばれた少女が凛と呼びながらちんまりした少女を諫める。

 リリアーナ、凛、菖蒲――この三人が魔法少女なのか。しかし、葵の言わんとしていることは実に的を射ている。

 それぞれの性格や口調から鑑みると――――、

 強気で勢いのあるリリアーナ。

 陽気で子どもっぽい凛 

 おっとりした大人な雰囲気ある菖蒲。

 それぞれ順に赤、黄、青――正しく信号機(それ)である。


「はあ、君たちはこんな時でもまったく緊張感がないな。とは言え、君たちのことだから問題はないのだろうがね」


 呆れ半分に葵が口を開く。

 確かに彼女たちは魔女との戦闘中だった筈。もしかして既に倒してしまったのだろうか――律は首を傾げる。

 そんな律の疑問に答えるようにリリアーナが口を開いた。


「コルカチムは一先ず地に平伏しているわ。私たち――と言うよりは、菖蒲と凛の長文詠唱魔法をくらってるんだから、それなりのダメージにはなっている筈よ」


「ふむ、だが――トドメはまだなのだろう?」


「ええ、そうね。だけど――問題ないわ!」


 そう言ってリリアーナが魔女がいるであろう方向へと身体を向ける。

 凛と菖蒲が何やら神妙な面持ちでリリアーナを見ていた。


「リリィっち……」


「リリィちゃん……」


 その声音に何かを感じる。

 あの魔女に関係する何かを三人は有しているのだろうが、それを律は知らない。


 ――――ドンッ!


 と、鈍い音が響く。

 リリアーナが身体を向けていた方向に黒い影が浮かび上がる。


「……さて、気にはなるだろうが、絶対に視線を合わせないように。直死の魔女コルカチム――冗談や誇張抜きに即死するぞ」


 葵が俺へ向けて言う。


「……まあ、良いわ。アイツに引導を渡すのはアタシたちの仕事。そして、その役目を今回は私が担うだけ」


 右手を開き、天高く振り上げ、リリアーナは言う。


「凛、菖蒲、アンタたちは既に魔力を使い過ぎている(・・・・・・・・・・)。だから、ここはアタシがやるから」


 その宣言に凛と菖蒲は口を閉ざす。

 葵も口を閉ざし何も言わずに静観を決め込んでいた。

 律だけがその会話の意味を理解できていないのだと感じていた。


「我、魂の赫灼(かくしゃく)をもって乞い願おう」


 毅然とした声が響く。


「焼き尽くすは堕ちた清浄。怒りは汝の情景。故に我が(ほむら)で汝の恩讐の(ことごと)くを灰にしよう。恨むといい。憎むといい。嘆くといい。その全てを我が抱いて、我が受け止めよう」


 天上に幾何学模様(きかがくもよう)の魔法陣が朱紅(あか)い輝きを放ちながら幾重にも重なる。


生命巡廻(せいめいじゅんかい)。我が焔にて、その終わりを見届け、汝の新たな始まりを切に願わん」


 聖歌(えいしょう)の終わりと共に魔法陣の輝きは増し、魔女の頭上に白焔の渦が逆巻く。


「さようなら、アンタとの日々楽しかったわ――――生命巡廻の聖焔アグニカ・リンカーネイション


 白焔は滝のように魔女へと降り注ぎ、その辺り周辺を火の海へと変えた。

 律たちの方に影響がないようにはしているだろうが、発せられる熱を全身で感じとれた。

 熱い。確かに熱かった。

 だけど、どうしてだろうか?


「…………悲しいな」


 律は無意識にボソッと呟いた。


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