第一章/第四幕:『謝罪』
目の前の少年――桜目律の身に宿る魔女因子は、暴れていないもののあまりにも強大だった。
友であった魔法少女の右眼を持つ私は、少年があまりにもケロッとしている様子に恐怖を覚えた。これだけ強大な魔女因子を宿していれば、即座に魔女化しても変ではないからだ。
魔女の下僕を疑ったが、少年の態度からそれは違うことは明白だった。
何よりも少年はあまりにも常識が欠如している。魔法少女と魔女の関係性は子どもすら知っており、普通の人間は魔法少女を恐れる。たとえそれが実子であったとしても遠ざけてしまうほどに……。
たが、目の前の少年は魔法少女を人間である答えた。現代において、その答えが出せる者はそういない。まあ、見た目麗しい魔法少女に近づく為の方便とも考えられるが、少年の様子を見る限りそれは無いだろう。
私が思うに、少年の本質はただのヘタレだ。
「ふむ……どうやら君は浮き世離れした特異な人物のようだ。あまりにも常識を知らなさ過ぎる。そうだな、君は――――まるで突然見知らぬ世界に放り出されたみたいだよ」
私はとある確信を持って、その正直な感想を告げる。
少年の在り方は現代には則さないものであり、嘗て存在していたとされる魔女と魔法少女がいなかった時代のもの。
だからこそ、私は確信を持って少年に向かって言ったのだ。
「――見知らぬ世界。そんな考えに至ったのは何処からだよ?」
「ふむ、その台詞こそが根拠であると私は言いたいね。これまでの経験上、人は図星を突かれるとその理由と根拠を求めたがるからな」
私の答えに少年は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。
そのあまりにも心境を隠そうとしない姿に、先ほどまで銃口を突き付けていた自身を馬鹿らしく思う。
こんな素直な餓鬼が敵であるとは到底思えなかった。
「まあ、良い。人には言いたくない秘密は有するものだ。私にも人には言えないものがあるように、君にもあるのだろうさ」
「……いや、俺の秘密なんて大したものじゃない。ただ、信じてもらえるかどうかの話なんだよ」
「なるほど。先ほどまでの会話の中で、ある程度察しはつく。確かに荒唐無稽の与太話かも知れない」
私の台詞に少年は表情を硬くする。
だが――――、
「されど、君の身に起こった事実を無碍に片付けるには少しばかり早計だろう。なぜならば、現代には魔法少女が存在し、魔女が跋扈するからだ」
当たり前になってしまった存在。
しかし、嘗ては存在しなかった存在。
魔法少女と魔女。遥か昔、それは空想上の存在として語られていた物語の一要素でなかった。
それが現代に存在している以上、少年の身に起こった事象を否定することはできない。
「銃口を向けたことを謝罪しよう。そして、改めて名乗らせてもらおう。私の名は天竺葵。形だけの大佐ではあるが、それなりの死線を潜り抜けてきた自負はある。そして、この右眼に魔法少女だった者の眼を有する異端者だ」