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第一章/第一幕:『邂逅』

 見慣れた街の喧騒が消失した。

 賑わいのある人混みと絢爛に建ち並んでいたビル群は失せ、積み上がった瓦礫と自然音だけの物寂しさが広がっている。

 そして空には煌々と光を放つ月が浮かんでいた。

 そんな場所に突如として放り出された少年――桜目律(さくらめおと)は驚きのあまり口を半開きのさぞ素晴らしいアホ面を浮かべていた。


「…………はあ?」


 苦し紛れに何とか発した律の言葉はあまりにもマヌケなもの。目の前にあった日常はいったい何処へ消えてしまったのか?

 真っ昼間だった筈の風景が一瞬にして黒い帳が降りた夜。

 車のエンジン音も、電車の走行音も、人々の話し声も――律にとって当たり前だった全てがたった一回のまばたきの間に無くなったしまった。姉にお使いを頼まれて外出しただけの筈が、とんだ非日常な災難に巡り合ってしまった。

 しかし――と、律は大きく深呼吸をする。


「これが異世界転移か……」


 突然舞い込んだ普通から掛け離れた非日常。

 見知らぬ大地に放り出されたことは間違いないが、彼の内心は未知に対する高揚感で心は轟々と昂っていた。速くなる鼓動と渇く喉を動かしなから、周囲をキョロキョロと見回す。

 何処までも広がる瓦礫の山々。ネット小説等で語られるような西洋ファンタジー感は皆無。ただ何処か現代社会の残り香が漂っているように感じられる。


「こう言ったヤツのお約束はアレだ。やっぱり最強能力(チート)だよな」


 独り言を吐きながら律は左右の掌をグーパーと開け閉じする。そして、散々擦られ続けた異世界転移、或いは転生ではお約束となった言葉を唱える。


「ステータスオープン!」


 少しばかり上擦った声になってしまったが、ドヤ顔で発した律の声が周囲にじんわりと広がった。

 一秒、二秒、三秒――沈黙だけが場に滞留した。なお、彼の眼前にステータスのような表示は一向に現れなかった。

 こうなると誰にも見られていないにしても妙な羞恥心を抱いてしまうもの。律の顔は熟れ始めたリンゴのようにほんのりと赤くなっていた。


「うわっ、恥ずい。キメ顔だっただけにバカみてぇだ」


 そんなことを吐き捨てるように言いながら、律はこれからの事を考える。

 仮として、この身に最強無敵(オレツエー)的な能力があったとしても腹は膨れない。生きて生活をする為に衣食住は必ず必要だ。今のところ衣は兎も角、食と住は必須(マスト)と言っても良いだろう。


「見える範囲に人っ子一人いない瓦礫の山。もしかして冷静に考えると結構マズい?」


 昂っていた情緒が落ち着き始め冷静になってしまえば自身の危うい現状が嫌でも見えてくる。


「えーっと、手元にあるのは財布とスマホは……当然圏外と。で、それ以外の手持ちは無し――なるほどね」


 財布の中には今や絶滅危惧種となった野口さんが三枚と多少の小銭。これが異世界転移とすれば、頼りになるとは到底思えない。そして、律の所持品で最も高価にして現代社会が誇る文明の機器(スマートフォン)だが、こちらは圏外である為は当然ながら使い物にならない。

 口にしたものの我ながらいったい何が「なるほどね」なのか――律の背筋にそれはそれは嫌な汗が流れる。


「……これはマズいなんてどころの話じゃないぞ。このままだと飯抜きで野宿だ。それに人を探すにも宛がねぇ。つーか、近くに人なんて――」


 その時だ。

 耳をつんざくような轟音と共に大きく大地が揺れ、大きく蹌踉めいた。

 遠くで黒煙が立ち昇り、小規模の爆発音が数度鳴り響く。


「な、なな……何だァ!?」


 裏返った声でオロオロと首を右へ左へと動かす律。そして、その存在を見た。

 それは頭上を猛スピードで通過し、地へと突き刺さる。同時に再び大地が大きく揺れる。


「オオッ!? って、何か飛んでいったぞ!」


 それが突き刺さった場所には砂煙が立ち昇っていた。が、その砂煙は一陣の風と共に霧散する。


「――――何だよ……アレは?」


 砂煙が明けた先にそれはいた。

 月明かりに照らされる異形。ピンクに近い紫色のドレスのようなもの身に纏っている。顔と思われるものは花の球根のようであり数多の目がギョロギョロ動き、人のような四肢は見受けられない。その背からは白い触手が数多に生えていた。

 ワケも理解(わか)らず突如として此処へやって来た律でも、それが化物であることは一目で理解できた。

 あまりの出来事とその歪な風貌に思わず唖然とし、それを凝視している時だった。


「――アンタ、死にたいのッ!」


 そんな言葉と共に頭を掴まれ、そのまま律は身体ごと地へと叩きつけられた。


「ガァッ⁉ っ――痛ェ!」


 無防備のまま受け身も取れず叩きつけられて律は苦悶する。痛みに悶えつつ視線を上げると、そこには腰まで伸びた純白の髪を靡かせる少女が立っていた。その表情から怒っていることは明らかであり、無意識にも律の心臓はキュッと締め付けられた。


「何で魔女顕現地域(こんなところ)にアンタみたいな一般人がいるのよ。居住区域の近隣ならまだしも、もしかして自殺志願者だったりするのかしら?」


 キッと睨みながら言葉を発する少女。


「いや、別に自殺志願者じゃないんだけが――」


「立ち上がらないで。身は屈めたままで。あと絶対に魔女へ視線を向けないように」


 立ち上がろうとした律へ、少女は棘のある声音で告げる。


「はい? え、アレが魔女だって?」


「そうよ。もしかして魔女を見るのは初めて? だったらアンタは随分と幸せな人生を歩んできたのね」


「いやいや、どう見てもアレが魔女だなんて思えねぇよ。どうみても外宇宙から来たような|SAN値直送味溢れる化物グレート・オールド・ワンじゃねぇか!」


「グレート・オールド・ワン? アンタ何を言ってるの? 居住区域で遊んでいる子どもでもアレを見て直ぐ魔女だと理解(わか)るのだけど?」


 律がイメージしていた魔女はファンタジー作品ではよくあるとんがり帽子を被ったボンキュッボンなグラマラスな女性の姿。しかし、少女は(くだん)の化物が魔女だと告げている。

 困惑の表情を浮かべる律に、少女は訝しそうな目を向ける。


「はぁ、まあ良いわ。死にたくなかったら物陰に隠れてジッとしていること。あとは絶対に魔女と目を合わせない。良いわね?」


 溜め息交じりに少女は近くにある瓦礫の山を指差しながら告げる。


「お、おう。って、君はどうするんだよ?」


「……アタシのような奴が此処にいるのなら答えは一つなのだけど?」


 射殺すような視線で少女が睨む。


「一つ? もしかして冒険者だったりするのか?」


「冒険者ぁ? ちょっとアンタ何言っているの? 戯言もいい加減にした方がいいわよ?」


「いや、あんな化物の討伐する女の子なんて冒険者以外に何があるんだよ?」


「…………どんな場所から来たのよ、アンタは」


 怒り半分、呆れ半分に少女は溜め息を吐いた。そして、口を開く。


「耳をかっぽじってよーく聞いておきなさい。アタシたちは魔法少女。あの魔女を討伐する為に派遣された人類の兵器(切り札)よ」


昨夜良い刺激が得ることができたので執筆意欲が一割増になりました。


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