一つ目の願い
生徒全員が全速力で元来た道を走り出した。
ハゼルがロゼルトの手を掴み、引いて走る。
「ロゼルト!願いが叶えられるのは一人一回だけか!?」
「ああ!一回だけだッッッ!三人分以上は叶えられないッッッ!」
「アリス!姫井!アルト!誰でも良い!俺ら全員がここから脱出する事を願え!」
「?……アルトの能力を使わないのかッッッ?」
「アルトはダメだ!相性が悪い!」
「じゃあアリスが!ロゼルト!"アリス達全員を無事にこのお城から脱出させて"!」
「願い承ったり!」
その時、地面が揺れ始め、そこかしこから砂埃がこぼれ落ちてきた。
「早く!」
アリスが悲鳴を上げる。
「はいよォ!」
直後、全員が真っ白な光に包まれた。
遠くでガラガラと何かが崩れる音がくぐもって響く。
光が収まると、そこは迷宮の入り口から出たすぐ外だった。
「助かったの……?」
アリスは辺りを見回し、一人も欠けていないか確認した。
「お前達は助かったッッッ!願いは叶ったな!ところで、何故アルトの能力を使わなかった?」
「……俺の能力は、相手の願いを不完全に叶えるっていうものなんです。"200%"って付け加えてもらえれば叶う事もあるんですが、それも確実じゃなくて……」
「俺の劣化版じゃないかッッッ!」
ロゼルトが仁王立ちで嘲笑う。
「そうですけど!?」
アルトが苛立った様子で怒鳴る。
「俺の方が上だッッッ!」
「だから何なんですか!?」
「俺はお前より優れているッッッ!」
「だから!?それが何の意味があるんですか!?あと二回しか残ってないくせに!」
「ハッハッハッハッハッハ!ハッハハハハハ!アハハハハハ!ハァ、ハァ……」
突如、高笑いし始めたのは、ハゼルだった。
「お前らくだらねぇ事で張り合ってねぇで無事を喜ぼうぜ。マジで死ぬかと思っ……フフフ……」
「こういう時、笑うタイプなんだ……」
「だってアリスだぞ?アリスがループしてくるって事は即死確定じゃねぇかよ」
「確かに一歩間違えたら詰んでたよね……」
彼らは、それぞれ無事を喜び、帰路についた。
「これからどこへ行くんだッッッ!?」
相変わらずのハイテンションでロゼルトがたずねる。
「私達の学校、ループ専門高等学校ですわ」
オリヒメが答えた。
"伯爵城"から歩いて30分ほどの場所に、ループ専門高等学校はあった。
その門の前には、オリヒメの父親である姫井校長が待ち構えていた。
「お帰り、オリヒメちゃん」
「お父様!"オリヒメちゃん"じゃありません!オリヒメとお呼び下さい!」
「オリヒメちゃん、今回は収穫があったらしいね!」
「もう!お父様ったら……」
「ハゼル君からの連絡、確認したよ。迷宮人だって?」
「いつの間にそんな連絡を……」
「扱い方の分からないものがあったらすぐ相談、常識だろ」
「結論から言うとだね……」
校長は少し気まずそうに生徒達を見た。
「彼はこの門から先に立ち入らせられない!」
「え……!?」