ロゼルト
「アリスー、この宝箱開けて」
「はいはいそれ罠だよ」
「中身は?」
「空っぽだった気がする」
「って事は大した量入ってねぇな、次!」
ある時、世界各地に謎の地下空間と入り口の門が現れた。
今となっては"迷宮"と呼ばれるそれらは、多くの財宝や未知の生態系が隠されている事で知られ、探索に来る人々も少なくはない。
「もー!いっつもアリスばっかり死ぬ役じゃん!」
「それ以外何させろってんだよ」
「そうだよ、しょうがないでしょ?アリスは"死んだらループする能力"なんだし」
ある時、とある手品師の少女が注目を浴びた。
彼女は水を自在に操り、机すら真っ二つに両断して見せたのだ。
"アクアガール"ララ……彼女が世界で最初に発見された異能力者とされている。
彼女の躍進のかたわらで、世界中でいわゆる"異能力"を有した子供達が見つかり、世界は異能力があって当たり前の時代に突入した。
「ハゼル君が死んでカグヤちゃんがループ使うんでも良いでしょ!」
「いや俺が何の為にいるか忘れたか?全員身動き出来なくなった時に爆発してテメェを殺す為だ、アリス」
世界が混沌とし始めた中、ひとまず同系統の能力者を一律に教育すべく、レーザービーム専門学校やデスシャッター専門学校など、一種類の能力の生徒のみを集めた専門学校が現れるようになった。
それら専門学校の一つ、ループ能力者を集めたループ専門高等学校では、ループ能力を活かし、死者を出した事のある能力を持つ生徒との連携訓練と、迷宮の探索調査が行われていた。
そして今まさにその両方を並行して行なっているのが、彼ら……。
「ルー専ってさぁ、頭おかしいよね?死ぬのがトリガーな人そんなにいないしカウンセリングの授業もないのに危険能力担当が暴走したらどうするんだろ?」
「それだよな。死ぬのがトリガーじゃない奴しかいない時とか試しに今いきなり爆発してみたらどうなるんだろって考えた事は何度もある」
「ちょ、やめてよ……私そんな反射神経良くないし」
星降アリス、新星ハゼル、月見カグヤの三人グループである。
何の変化も無い道をしばらく歩いた三人は、奇妙な壁面を見つけた。
奇妙な紋様がそこかしこに彫られていて、宗教を彷彿とさせるその壁面の前に、他の探索者と思われる一人の少女が立っているのに彼らは気付いた。
遠目から見ても少女が何かを呟いているのが分かる。
「え?何あれ」
「ちょっと……あれは……何言ってるんだ?」
「え……何?何なの?」
三人が近付いていくと、少女の声がはっきりと聞き取れるようになった。
「"私はあなたを選ばない"」
「"私はあなたを選ばない"」
「……"私"は"あなた"を"選ぶ"」
「……ん?え?」
「"私はあなたを選ばない"」
「……"私は"……"あなた"を"選ぶ"……」
「何だアイツ」
ハゼルがつぶやく。
「"私はあなたを選ばない"」
少女はその言葉を繰り返す。
「おいそこの」
「あ……」
声をかけたハゼルを無視して少女は一人つぶやき続ける。
「"私は"……」
「ん〜……ほっとこう、ヤベェ奴だ」
三人は壁面の前から立ち去ろうとした。
すると、その壁面の前の少女が……。
「"私は……あなたを選びます"……」
そう言い残し、消え去った。
その少女のいた辺りで、壁面の一部が音を立てて崩れ落ちた。
「え!なんか壁が崩れた。見に行くか?」
「……罠じゃないよね?」
「何の為のお前らだよ、行ってみよう」
「うん……」
と、三人がその瓦礫に近づいた時。
バキバキッ!
「え」
壁の穴からぬっと姿を現したのは、少年だった。
「人だ……」
「ロボット?」
少年は、三人へ向き、息を大きく吸うと、叫んだ。
「震天動地のォ!最強不屈の叶え人!ロゼルト・リヴァーテイラーとは俺のことだァッ!」
「……は?」
「叶え人?」
ロゼルトはアリスを指さした。
「お前か!ロゼルテが言ってたアリスってのは!」
「え、なんでアリスの名前知ってるの?」
「あと二人だな!」
「何が?」
ロゼルトは奇妙な壁を殴り、破壊し始めた。
「おい、お前は誰だよ!」
「無敵の願い叶え人!ロゼルト・リヴァーテイラーだッ!」
彼はそう言って壁を壊す。
「だからそうじゃなくて……あー……じゃあお前、願いを叶える力があるのか?」
「その通り!願いを叶えるのは俺しか出来ない、俺の"唯一無二"なんだ!」
ハゼルはカグヤを見た。
カグヤもハゼルを見た。
「いるけどな、二人目」
「なんだとッッッ!?そいつの名は!?」
「瀬田アルトって奴だ、そいつの能力が"相手の願いを叶える"なんだよな」
「ロゼルテが言ってた奴の二人目じゃあねえか!」
「そのロゼルテって、さっき壁の前にいた女の子?」
「そうだぜ!ロゼルテは俺の双子の姉だァ!」
「あなたはどうして壁の中にいたの?」
「願いを叶えられちまうからなァ!封印されたのさァ!」
「今のは解除の儀式だったって訳か?」
「そうだなァ!定期的にやってもらってる!この伯爵城の中で!危険じゃねぇ願いを抱いてる奴らに"もれなく来て頂いて"、そいつらの願いを叶えたらまた壁ん中だぜ!ヒュゥ!」
また、ロゼルトが壁を破壊する。
「ここ、伯爵のお城なんだ……」
「……ん?その願いを叶える人を選ぶ事は出来るの?」
「そんな下手な真似したら伯爵がお怒りになってどんな罰が下るか分かんないぜ!」
「でも……」
さっきロゼルテは"選ぶ"って言ってた……。
アリスは出かけた言葉を飲み込んだ。
目の前の落ち着きのない彼にその事を言ったら何か収拾のつかない事になりそうな気がしたからだ。
「とりあえずお前、俺らと"城"の外に来い。聞きたい事がたくさんある」
「それはアルトとオリヒメがここに来てからだぜ!」
「は?」
「じきにここに来るッッッ!」
ロゼルトの言った通り、少ししてその場に別の三人グループが現れた。
瀬田アルトと姫井オリヒメ、そして落星院オリヒコのグループだった。
「あら、ごきげんよう!」
「嘘だろ」
「本当に来た……」
「どうされましたの?」
ロゼルトが前に進み出る。
「アルト!オリヒメ!アリス!お前らはここに導かれてやってきたッッッ!何故ならばッッッ!この俺が願いを叶えてやらねばならない相手だからだッッッ!」
「はい?」
オリヒメもアルトもポカンとしていた。
オリヒコだけは興味津々な様子でロゼルトを見ていた。
「なんだいコイツ?何かにやられた探索者じゃないよな?」
「その通り!俺はこの伯爵城の住人だッッッ!この城の中にいる者の中で危険の無い願いを抱く者の願いを叶えるッッッ!っていう不思議な人間それが俺ェ!」
「なるほど、願いじゃありませんが一緒に来て頂けますか?あなたを連れて帰れば今までにない収穫になる」
アルトもロゼルトに興味を示した様子でそう言った。
「全員揃った事だしな!そうしようッッッ!束の間の自由だッッッ!ヒュゥ!」
「待って!」
アリスが叫ぶ。
和やかになり始めていた彼らの空気が凍りついた。
「ど、どしたの、アリス?」
「あのね……もうすぐ地震が起きて、ここの道、埋まっちゃう!」