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 スルドケースがぶつからないように気をつけながら駅の自動改札機のような受付を抜けると、両サイドに四基ずつのエレベーターが行き来するホールに出た。

 エレベーターの前に行こうとすると、祷に「こっちだよ」と促された。もう一つ隣にも同様の作りのエレベーター乗り場がある。どっちでも同じじゃないと思ったが、こちらは十階より上の階のためのエレベーターホールのようだ。

 目的の部屋は十五階らしい。


 エレベーターを降りると左右に分かれる形となっていた。正面の壁面に案内が書いてあったが、祷は特に確認する様子もなく、迷わずに進んでいく。

 初訪問じゃないのかな?


 進むとすぐに開けたエントランスのような風情の場所に出た。配布資料が刺さったラックが設置され、展示物やモニターが壁に掲げられた空間にはソファーがいくつか置かれている。


「もう大丈夫かな」

 祷は言うと、受付用の電話機の受話器を外し、電話機に付属しているタッチパネルから部署の内線が記された画面を表示させ、該当の連絡先を呼び出す。


「十八時に安達(あだち)様とお約束させていただいております、姫田と申します」


 うわ、ちゃんとしてる。大人みたい。

 でも、『姫田グループ』で来客として姫田姓を名乗るのってちょっと気まずそう。受けた相手もちょっと混乱しそうだ。


「すぐ来るって。待ってよ」


 笑顔で言う祷。先ほどまで他人事のように祷の大人みたいな動きを見てのんびりとした感想を思っていたが、祷の言葉が宣告のようで、急に現実に戻された気持ちになり、途端に緊張してきた。


 これからわたしが、大人のひと相手にプレゼンをするのだ。



 言わなきゃいけないことは資料に書いてある。

 言いたいことはわたしの胸の裡にある。


 致命的なことにはならないと思うが何分初めてのこと。

 いわゆる「会社」って感じの雰囲気も相俟って、緊張が高まっているのだろうけど、これまで経験した緊張とは種類が異なっているような気がした。手指の感覚が無くなってきている。


 そっと横の柊を見る。浮かれた様子は無かったが、それほど緊張した様子は見えなかった。そう見えただけで、内心はドキドキしているのだろうか。

 わたしも他人から見たら、そんなに緊張しているようには見えないのだろうか。


 なんて思っていたら、祷が背中にそっと手を置いてくれた。祷にはわかっちゃうんだな。でもなんだかそれは嬉しいと感じた。

 薄くはない生地の制服を通して祷の手の温度がゆっくりじんわり伝わってくる。暖かさがわたしの身体をに溶け込んでいくと、緊張が少しだけ身体に馴染んできた。


 薬のコマーシャルの、成分が体内で分解して効果を発揮するイメージ映像のようなものが思い浮かんだ。


 緊張が消えてなくなったわけではないが、上擦ったような感覚は薄れている。



 穂積さんを見たら目が合った。微笑んでくれた。

 柊を見たらいつの間にか集中した顔をしている。パフォーマンスに向けて高めているのかも。




 心強い。

 やれる気がしてきた。がんばろう。


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