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 姫田という名は、自分の姓としてしか意識したことはなかった。

『姫田グループ』の創業一族といってもピンとこないし、どこか遠い世界の出来事のようで。



『姫田グループ』のことはお父さんの勤め先という程度のイメージしかなく、わたしの生活に関わることのあまりない会社だ。

 たまにテレビでコマーシャルが流れてくることがあるが、広い大地に大きな木が聳え立っていて、良い感じの音楽に良い感じのキャッチコピーが流れる、いまいちよくわからない内容だった。

 なので、前身が林業の会社だということは知っているから、木材に関する会社なのだろうとは思うが詳しくは知らない。

 柊の家のように、家の敷地に会社があって、ご両親の仕事と近い生活をしている子は親の仕事内容を詳しく知っているけど、サラリーマン世帯の家だと意外と親の仕事の内容を知らないという子も多い。


 大きい会社だとは知っていたけど、木材の会社だし、どちらかと言えば実質剛健なイメージだし、悪く言えば野暮ったい会社を想像していたが、社屋のある大手町駅を降りたときからある種の予感を抱いていた。

 どちらを向いてもオフィスビルばかりの街で、方向感を失いながら祷についていく。

「ここだよ」と、祷が振り返った。

 抱いていたその予感は的中した。


「ふぇー、すごいねー」


 柊がわたしの分まで感嘆の声を上げた。


 祷に連れてこられたビルは、洗練されたオフィスビルで、敷地入り口付近にデザインされた壁に『HIMETA』のチャンネル文字が輝いている。その下に『株式会社姫田グループ』『株式会社姫田(旧姫田林業)』『株式会社姫田ホールディングス』『株式会社姫田マネジメント』と会社名が刻まれていた。

 こんなにいっぱい会社あったんだ。

 階の案内を見ると、他にもいくつかの会社が入ってるフロアや、逆に一部門だけでフロアを使ってるところもあった。


 敷地からエントランスに向かう長いエスカレーターに乗る。

 エントランスは二階だか三階に相当する階にあった。


 エントランスに入ってまた驚いた。

 高級ホテルのような広いロビーには、余裕を持った配置でソファが点在していて、スーツ姿の人が座ってカバンの中をチェックしたり、誰かと待ち合わせをしているのかスマートフォンでメッセージを送ったりしているひとたちがいた。

 十八時前という時間が終業時間の前か過ぎているのかよくわからないが、業務のピークの時間ではないと思う。それでも、何人かのひとたちが訪れている。

 その奥の受付は更に圧巻だ。

 見たこともない長さのカウンターに、左右の距離をかなり空けた配置で受付の方が六名。

 受付をする役割だけでも、それだけの人数が必要になるということだ。


 祷からは、わたしと柊は制服のままでくるように言われていた。それもひとつの戦略らしいが、どう見ても場違いではやくも心が挫けそうになる。制服だけでも浮いているのに、祷とわたしが持っているスルドケースは更に異様だ。穂積さんと柊もそれぞれで衣装を入れているコストコの大容量ショッピングバッグも、ふたりとも羽根が少しはみ出していてなかなかに異彩を放っている。



 何やら興味深そうにきょろきょろしている柊。緊張よりも好奇心の方が克っているようだ。ある意味堂々としていて頼もしさを感じる。わたしも雰囲気に飲まれちゃダメだと気合いを入れた。

 ちなみに祷と穂積さんは清潔感のあるオフィスカジュアル寄りな服装で、就活生的な感じにはせず、女子大生感は出しつつも落ち着いた雰囲気にしていた。

 祷は実演には着替えずに入るので、多少動きやすさも意識されているが、見栄えの良さを重視した組み立てだと思った。


 祷はなんでもないようにビルの端のガラス張りの壁面付近にある見慣れない端末にスマートフォンをかざして何やら操作をしている。戻ってきた祷の手には、QRコードが印刷された紙を持っていた。


 これが入館証になり、受付の隣にある大きな駅みたいに並んでいる改札機みたいな機械にかざせば入館できるようだ。


 これで入れちゃうんだ?

 それなら、あの大仰な受付はなんの意味があるのだろう?





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