6
わたしの叫びは一応疑問形になっていたはずだが、柊はそれには特に答えず、お誘いの言葉を続けた。
「このイベント、パレードとステージがあって見応えあるし、合間とか結構時間あるからお祭り一緒に回ろうよ」
柊の誘いにわたしは気圧されるようにうなずいていた。
終わった後も打ち上げまで少し時間があるから一緒に回れるし、なんなら打ち上げも出ようよなどと言っていたようだが、ほとんどわたしの耳には届いていなかった。
ようやく立ち直ったわたしは、頭の中を整理しながら柊に尋ねた。とにかく訊きたいことが多すぎる。
「これって、サンバ?」
まずは基本的なところから。
「うん、そうだよ」
「サンバって、やるものなの?」
これもきっと基本。
「やらないサンバなんてなくない? 誰かがやるから観られるんじゃん」
そう言われてみればそうかもしれないが、やるものなんてイメージで見たことはない。と言うより、よくよく考えたらちゃんと見たこと自体ないのだが。
「柊、踊るの?」
基本的な質問が続く。ひとつひとつ片付けていかないと追いつかないから仕方ない。
「うん、ダンサーだからね」
「ダンサーじゃないサンバなんてあるの?」
サンバといえば、あの派手な羽根をつけたダンサーだよね?
「あるよ。音楽だもの。打楽器や、歌やメロディーもあるし」
これも、言われてみればその通りなのだが、具体的なイメージがわかない。テレビのバラエティ番組などでサンバダンサーが出てくる時は、ピー! ピー! と、ホイッスルがなっている気がしたが。
「踊る人は裸なの?」
裸は言い過ぎかもしれないが、ほぼ裸な露出の高い格好をしている印象がある。
「裸じゃないよ。ほら、写真見てよ。服着てんじゃん」
「これ、服?」
服? これが?
「服っていうか、衣装? だから、服だよね」
「まあそうか。服なら裸でも良いの?」
衣装っていっても、身体を隠す面積は小さめで、一方背中や頭には大きな羽根がついている。やっぱり服、ではないよね。
「裸じゃないよ。わたしの衣装はパレオみたいになってるし、おなかだって見えてないじゃない。大人のダンサーだって、別に裸ではないでしょ。露出度が高いのは認めるけど」
「ああそうか、柊は大丈夫なのか。良かった」
確かに、写真のひとりひとりを見てみると、露出度が高い人ばかりではなかった。柊も長い手足は素肌だが、胸やお腹、腰回りなどはあまり出ていない。
「大丈夫ってなにが? 良かったってなにが?」
「いや、裸じゃなくて良かったなと」
「そりゃーそうでしょ。裸で路上でたら捕まっちゃうよー」
柊はけらけらと笑っている。
質問には全て端的で明瞭な回答があった。
では、理解できたのかと言われると、どうだろう。
わかったような気がしたけど、実は何も理解できてないような気がした。
わたしの質問が的を得ていないのだから当然ではあるのだが。