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うーん、なにから手をつけたら良いのだろう?
『先輩連合』がまとめてくれた情報を出力した紙の束を眺めながら考える。広げたノートはまだ白紙だ。
とにかく時間がないのだ。授業の合間の休み時間も無駄にはできない。
「あ、それってもしかして」
柊が声をかけてきた。
「あ、穂積さんから聞いた?」
頷く柊に、「なんか、巻き込んじゃったとしたらごめん」と謝ると、「全然! すごく面白そう」と、本当に楽しそうに言ってくれたので少し気持ちが楽になった。
それでもなにかが進んだわけではない。時間がないことはなにも変わってはいない。
祷はわたしに「さすが」なんて言っていたが、祷の手際の良さこそ「さすが」だった。
ハルさんやウリさんたち、穂積さんの迅速で精度の高い動きには驚かされたが、その音頭を執っているのは祷だ。
そして、祷自身の動きも迅速だった。
姫田グループの担当者へのプレゼンは今週の金曜日十八時で決まっていた。学校を終えてから行けるように配慮してくれたらしい。
業務時間外なのだろうか。その時間以降なら時間に余裕はあるとのことで、終わり時間は気にしなくて良いらしい。
音楽室のような部屋をとってくれたようなので、音も気にしなくて良いそうだ。ちなみに着替え用に隣の会議室もとってくれている。
プレゼン内容を前日までにまとめて資料にするなら、もう数日しかない。
明日はエンサイオがあるし、明後日はバイトがある。骨子だけでも今日中に組んで一度祷にチェックしてもらいたい。
「プレゼンで踊るのも、サンバが中心じゃない場で踊るのもはじめて! 新鮮で楽しみだなぁ」
そう、喜ばせる相手は阿波ゼルコーバのファンであり、主役はあくまでも阿波ゼルコーバとその選手たちなのだ。
そこを意識しないと間違える。
ゴールを先に決めてしまえれば、逆算して企画を作れそうな気がした。
少なくともなにから手をつけて良いかわからないって状態からは抜け出せた気がする。
「なんか少しわかったかも! 柊ありがとう」
柊はなんのことかよく分からず不思議そうな顔をしながらも「気にしないでー」と笑っていた。
ファンが見たいのは?
サッカー選手だろう。
ファン感謝イベントにまで足を運ぶほどのファンなのだ。サッカーの試合以外にも楽しみ方を見出している層が喜んでくれそうなもの。
過去のファン感謝イベントもまた、その意図で作られているから、そのまま参考にできる。その中でも評判の高いものをいくつかピックアップして、サンバと親和性の高いものを探る。
ファン感謝イベント内のコンテンツを軸に組み上げればブレないものができるのではないだろうか。