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「がんちゃん、さすが」
わたしがぱっと思いついた懸念点を伝えると、祷は嬉しそうに言った。
「がんちゃんは肌理の細かい丁寧な計画を練るのに向いていると思う。単に細かいというのではなくて、視座が高くて視野が広いから、全容が視えていて、全体を構築するために必要なもの、障害になるものがパッと見つけられるんだね」
それは褒めすぎじゃ?
そんな大それたものではないと思う。
隣に座った祷は近くて、わたしの顔を笑顔でまっすぐ見ている。
こういう褒められ方はあまりされたことなくて、妙に面映い。
「時間がないのはまさにその通りで、だから拙速にならないようにしながらも急がなきゃならない。なのでがんちゃんが集中しないとならない部分、以外はチームに振るのだけど、進められるところは既に進めてもらってるんだ」
『先輩連合』の情報収集はほぼ完了している。
新規に市場調査をかけている余裕はないので、口コミやネット上の意見などを集約した。ファングッズの売れ行きや、選手が出演している(主にローカルなものが中心だが)メディアの番組やCMの方向性や評価など、拾える情報を幅広く集めて分析がなされていた。
阿波ゼルコーバファンが、チームにまたは選手なにを求めているのか。
どの選手がファン人気が高く、どのような要素が人気なのか。
過去イベントでファン評価の高かったものはなんなのか。
ピンポイントの精度を求めるわけではないので、ここで得られる情報からある程度の的が絞れれば充分だった。
姫田グループの企業理念や行動指針、IR活動の方向性、ゼルコーバ広報の傾向などもまとめてあるという。
四国の近隣の岡山にはブラジル人のサンバショーが売りのひとつになっている鷲羽山ハイランドがあるからか、四国でも意外とサンバが根付いている。
サンビスタ(サンバを愛し、修めているひと)や、サンバチームは多そうだ。
外部のエスコーラが場を荒らすようなことにならないよう、筋を通し地ならしをする部分は、代表のハルさんが既に動いているそうだ。先代の代表も協力してくれているという。
遠方のイベントになることから、『ソルエス』から参戦できるメンバーは限定されそうな懸念点もあり、それも払拭する策として、地域のエスコーラやブロコ、サンビスタに協力を依頼し、合同で実施できないか協議を進めている。
地元のサンバ関係者たちからすれば、元々なかったイベント。オフシーズンのイベントということもあり、概ね快諾をもらえそうな段階まで来ているという。
プレゼンの時の実演パフォーマンスは、スルドニ本のバツカーダと、祷がウクレレとヴォーカルによる日本のヒット曲をサンバアレンジしたものに、わたしのスルドをあわせたものの計二曲。
どちらも穂積さんと柊は基本フリー。フリーでもあのふたりなら魅せてくれるだろう。
ただし、フリーだからと言ってそれぞれが好き勝手に踊れば良いというものではない。
そこは穂積さんが、サンバでファン感謝イベントを盛り上げる、でも主役ではないという今回の趣旨と目的を踏まえ、構成や魅せ方を練っているという。
むしろ問われるのはスルドの方だ。室内だろうから、音の大きさで心を掴むよりも、単純なリズム楽器でありながら、多彩なバリエーションで奥深さを伝えた方が良い。
バテリアとしての叩き方よりも、わたしも祷もソロの叩き方で、たったふたりでもこんなに複雑な音が出せるのだという構成にしようと思った。