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「それでね、ちょっと考えてることがあるんだ」
祷はアイデアを語った。
営業といっても、むやみやたらに連絡してみたいなやり方ではなく、ターゲットは最初から決まっていた。
「狙うは、『阿波ゼルコーバ』のファン感謝イベント!」
『阿波ゼルコーバ』は、阿波市に拠点を置くサッカーチームだ。市の木であるケヤキがチーム名になっている。
あまり詳しくないけど、プロのリーグ入りを果たしたことが小さなニュースになっていた記憶がある。
前身は『姫田林業サッカー部』だ。その地域が創業地である『姫田グループ』が『姫田林業』時代に立ち上げた企業チームで、社名を変え拠点を東京に移してからもスポンサーになっている。
祷にしては短絡的では? というのが最初の感想だ。
うちなんて創業一族とはいえ傍流だし、姫田グループの経営はすでに創業一族の手を離れているから何の影響力もないだろう。
仮に多少影響力が残っていたとしても、会社の規模が大きくなっているから、個人の思惑でどうこうできるとも思えなかった。
姫田グループに直接働きかけるのも難しそうなのに、前身は社内のチームでも、今は独立したプロのリーグに所属しているチームだ。
姫田グループを経由できたとしても、スポンサーだからと言って簡単に干渉はできないのではないだろうか。
「大きくも、複雑にも、難しくも考えなくて良いんだよ」
原理原則は同じなのだと祷は言った。
ファンに還元したいチーム。ファン獲得による収益向上に繋げる意図もある。
そのために、毎年盛り上がるイベントを考えなくてはならない担当者。
地域貢献したいスポンサー企業。企業や企業の提供する商品・サービスのイメージアップを図り売上やIR、新卒採用に繋げる意図もある。
スポンサーになるのは経営者や経営陣の判断でおこなわれることも多いが、企業が大きくなりスポンサーをする期間が長くなれば、広報やIRの部門の社員が担当するようになることもある。
チームの運営やチームの取り組みに対し、スポンサーとして関わる役割は、姫田も今は担当者に任されていた。
担当者は、企業の一社員としての業務の一環で、企業利益に見合うかを費用と効果をシビアに判断する。
チームかスポンサー起業か、どちらにどうアプローチするにしても、判断するのは、まずは担当者だ。
イベントの第一義となる、来場者に「来て良かった、また来たい、一層ゼルコーバが好きになった!」と思わせられる要素を、効果に見合う予算でサンバ隊を用いた企画を提案することは、決して難しいことではないというのが祷の論理だった。