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「とにかく、駄目なものは駄目よ」
これ以上の会話の余地をお母さんはくれなかった。
お父さんは「まあ、成長期の娘の身体ということを考えたら、その方が良いのかもしれないな。次の機会まで待てば良いじゃないか」なんて、一見それっぽく、結果当たり障りのないどっちつかずのことを言っていた。
なんで。
わたしのことなんてどうでも良いって思ってるくせに。
だったら身体壊したって関係ないじゃない。
身体壊したらお金かかったり、面倒見たりしないとならないから大変だとか思ったのかな?
それならそう言ってくれたら良いのに。そうしたら、高校卒業したらすぐに出ていくから安心してって言えるから。
でも多分そんなことじゃない。わたしを心配してのことでもない。単にお母さんが思うお母さんの常識に沿っただけで、今回のわたしの希望は、それには当てはまらなかったというだけなのだ。
その程度のものに、わたしの想いは敵わなかったのだ。
言い方や伝え方を工夫していたら異なる結果にもなり得たかもしれない。
祷だったら、きっとうまく話を進められたのだろう。
祷がいるときに言えば良かったのだろうか。
わたしはわたしの気持ちを、真摯にぶつけて両親からの理解が欲しいと思った。理解を得た上での承諾が欲しかったのだ。
だから、ここはわたしの言葉で、助け舟の力など借りずに、会話をしたかった。
だから、勝つための準備を万全にして挑まなかったことに後悔はない。勝ち取ることのみを目的としなかったのだから。
勝ちにこだわらなかった結果、こんな着地になってしまったことは残念だった。
ハルさんやキョウさんには、せっかく色々と手を尽くしてくれたのに無駄にさせてしまって申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
同じイベントに出られることを喜んでくれた柊やにーなさん。イベントを見に行くと言ってくれた学校やバイトの友だち。
わたしと一緒に演奏したいと言っていた祷。
あーあ。
いろんなものがダメになっちゃった。
そんなわたしの今の心情は、意外なほどに冷めていた。
ただひとつ、両親に僅かでも期待をしていた少し前の愚かな自分のことが許せなかった。
祷と少し分かり合えるようになって調子に乗っていたのだ。
ベースとなる環境は同様のものを与えられ、共に生きてきた、運命を分け合える姉妹と、自分たちを保護の、あるいは支配の、対象と見做している親は、まったく異なる存在なのに。
理解し合えない者も在るのだ。たとえ身内でも。いや、身内だからこそか。
そこをきちんと認識し、受け止めないとなれないのかもしれない。大人には。
だとしたら、わたしは今日、少し大人になれたのだろうか。