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姉と比べられる日々には嫌気がさしていたのに、誰かと自分を比べて、そのようになりたいなどと思うようになるなんて、それだけでも心境の変化が自分をも変化、もしかしたら成長させたように思えて、でもなんだか自分らしくないようにも思えて、少しむずむずした。
この浮き立つような気持ちは、きっと悪いものでは無い。
今まで感じたことのない感覚の芽生えが消えてしまわないうちに、何か始めたいなと思った。
もうすぐ夏休みだ。何かを始めるなら良い時期だと思った。
柊は部活の合宿があるし、サークルの活動も活発な時期になるらしく、どうせ夏休みはあまり会えないだろう。
しかし、夢中になれるものを探すと言っても、簡単ではなかった。
それはそうだろう。夢中だなんて、気付いたらなっているものだ。
自ら探している時点で順番が違う。それでも、無為な過ごし方が染みついているわたしだ。意識して探しでもしない限り何も変わらないだろう。
そんなこんなで過ごした日々の慣れの果てが、今のわたしの部屋である。わたしの高校生活最初の夏休みの集大成でもある。
どうせなら将来役に立ちそうなものを、等という動機が不純だったのか、三ページまでは読んだプログラミングの本。
バンドをやっている友だちが五千円で売ってくれたアコースティックギター。
ひとりでやるつもりだったから、コードではなくドレミファソラシドが弾けるように練習をした。そこまではできるようになった。まだ一曲も弾ける曲は無い。
何故、それを自らの趣味にできると思ったのか。今は思い出すこともできない茶道の道具。
これまた、血迷っていたとしか思えない動画配信用セット。
そもそも発信するようなものがあるなら趣味を探そうなどと思いはしない。
この部屋以外にも、夢の残骸がそこここにあった。
玄関に停めてあるバイト代を貯めて買ったロードバイクはコンビニまでの移動を便利にはしてくれた。
庭に置きっぱなしのプランター内には、小さな生態系が出来上がっていたのでそのままにしておいた。当初育てようと思っていたミニトマトはとこかにいってしまったが。
物置に置いてあるバドミントンセットは、辛うじて今も柊に付き合ってもらって遊ぶことがあった。
こんなに長続きしないのもひどいが、チョイスも悪いのかもしれない。
わたしに合う趣味とは何だろうか。
これまでは心の中心に、祷や両親への負の想いがあったため、それ以外に目を向けられていなかった。いざその辺りが心からどいたとき、自分が何をしたいのか、姉や両親以外のことでわたしが何に心を向けているのか、わからなかった。
人のせいにはしたくなくても、どうしても自分をそんな風にさせた家族への想いが改めてもたげてくる。だが、それをしても意味はないと、なんとか気持ちを前向きに奮い立たせた。
わたしの中に何もないならそれで良いではないか。
わたしは今、生まれたのだ。まっさらなキャンバスに、何を描いたって良い。
焦っても仕方ないし、日々の生活でアンテナを高くして過ごし、なんにでも興味を持つようにしてみよう。
いつかなにかに当たれば良いのだから。
そうやって執着を少し手放すと、意外とあっさり見つかったりするものだ。