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 ハルさんは、事実と実態に基づいた絶対的な答えではなく、同じ事象でもひとそれぞれで抱えている事情や考え方、想いにより、答えは相対的になるのだと言った。



「だから、医者としては推奨しないが、大人としては禁じもしないし促進もしない。ただ、情報を伝える。

がんちゃんの抱える想いは、がんちゃんが何を大切にしたいのかは、がんちゃんにしかわからない。

俺たちができることは、可能な限り精度の高い情報を与え、がんちゃんがそれを解釈し決めた決断を、全力でバックアップし、その結果に大人として責任を取ることだと思っている」


 嬉しいしありがたかった。大人と若者というくくりで分けられてはいるから、一人前とは少し違うかもしれないが、ひとりの人間として尊重されているように感じた。

 だからこそ、安易には選べない。慎重に、真摯に決めなくてはならないと思った。


「それともうひとつ」


 ハルさんからは、わたしがあくまでも未成年であることを念押しされた。選択は、ご両親からもしっかりと理解を得るようにと言われた。



 まず、わたしがどうしたいのか。

 もちろん、イベントに出たい。そのために頑張ってきた。練習もだけど、怪我をした後は治すためにも頑張った。


 わたしの人生と将来と身体と想い、そのすべてを考慮したハルさんの言葉は重く正解は無い問いだ。正解の無い問いでありながら、わたしが出すその答えに、大人として責任を持つとまで言ってくれた。とても心強かった。

 心強かったが、責任を取らせるわけにはいかないという思いもある。


 そんなハルさんからもたらされた、専門知識を持つ医者という立場で伝えられた言葉は、「推奨しない」だ。そして、身体のことは、痛みや違和感は、甘く見てはいけないとも。



 総てを賭けてでも挑むに値するものだろうか?

 ハルさんが例えで出した甲子園の決勝のような。


 一生に一度、唯一の機会とまではさすがに言えない。

 でも、なにもなかったわたしがやっと見つけた好きになれたこと。

 デビューが決まったときは嬉しかった。

 一生懸命練習したし、怪我をした後は我慢もした。

 やっぱり、出たい。

 唯一ではなくても、この機会を逃したらしばらくイベントはない。わたしにとっては貴重な機会だ。



 総てを賭けるというほどのリスクだろうか?

 ハルさんの言葉を借りれば、十中八九は問題ないという評価なのだ。医師の言葉だから信憑性もある。

 残る一がリスクだったとして、そのリスクの重さは更に細分化されるだろう。

 またしばらく固定を余儀なくされる程度の悪化かもしれないし、二度とマレットを持てないほどの致命的な後遺症が残るかもしれない。


 楽観的な考えかもしれないが、そこまで重大な結果がわずかでも見えているなら、ハルさんももっと強く止めたと思う。

 許容できる範疇のリスクであるのではと思えた。そのなかで、最も重いリスクが顕在化する可能性はきっとごく僅かだろうし、顕在化したとしても人生を棒に振るほどのものではないと思う。







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